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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] [オススメ] 2009.06.27
watasgibiyori.jpg羽柴麻央「私日和」(1)


たとえば
昨日よりちょっと
自分を好きになれたり
新しい自分に出会えたら
今日の私は なんだか素敵



■1巻表記ありますが、読切りシリーズということで、とりあえず表題作をご紹介。
 美術部の久保桂は、同じ部にいる都築笑がちょっと苦手。いつも周りに合わせて過ごしている自分と比べて、いつも一人で堂々としている笑が、なんだかとても羨ましく思えたからだ。そんなある日、たまたま美術室で二人きりになり、思い切って笑に話しかけてみると、思いの外普通の人で拍子抜けする。それから二人はよく話すようになるが、最近なんだか笑の様子がおかしい。彼女にも、どうやら苦手な人がいるようで…!?

 昨年珠玉の読切り集『イロドリミドリ』(→レビュー)で話題をさらった羽柴麻央先生の最新作です。1巻表記のあるシリーズ物ですが、あくまでスタンスは読切りで、イメージも連作というよりは独立型という感じが強いです。各話の登場人物たちが、少しだけ繋がっている程度の関係性で、物語に直接影響してくるということはありません。今回もクオリティの高い、優しいお話たちが詰め込まれていますよ。


私日和
そういえば、羽柴先生の作品には涙を流すシーンが結構多く登場する気がする。感情の揺れ動きの細やかな描き出しが、少女漫画のひとつの醍醐味なのですが、それゆえに涙という“武器”は簡単に使って欲しくないという想いがあります。「なぜ泣く?」という作品が最近やたら多い。しかし羽柴作品は、どの涙にも納得できてしまいます。それだけ物語を描くのが上手いんでしょうが、無駄遣い感を出さないってのは、結構すごいこと。


 テーマというかスタイルとしては、2人の登場人物が配されて、その関係性や対比を描き出すことで物語を展開していくという感じ。それは男女の場合もあるし、女の子同士の場合もあり。個人的には女の子同士のお話の方が好きですね。少女の心情を描き出すのが本当に上手いんですよ。友情と百合の境界のようなものが垣間見えるというか、何とも言えない優しい関係性が描かれているんですよね。そこには確かな“感情”が詰まっていて、温度や匂いを感じさせてくれます。だから先に挙げた“涙”が出てきても、安っぽさを感じさせない。非常に後味の良い作品群でございますよ。もちろんおすすめ致します。


【オトコ向け度:☆☆☆  】
→このぐらい素朴な方が読みやすいのではないでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→優しさ溢れる良作読切り集。買って損はさせません。

■作者他作品レビュー
【名作ライブラリ】 羽柴麻央「イロドリミドリ」

作品DATA
■著者:羽柴麻央
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:ザマーガレット(平成20年8月号,平成21年1月号),デラックスマーガレット(平成21年3月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

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2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。