
これは
復讐の鬼となられた高貴なひとりの皇子と
その遣いとして働いた
小鬼たちの物語でございます……
■時は平安時代。御所ではこのところ、童姿の幽鬼が跳梁するという噂が絶えない。“鬼”と呼ばれるソレにおびえる者は多く、右大臣家は“鬼退治”を命じるまでになっていた。彼らの正体は、先の変政で担ぎだされ、いわれなき罪を着せられ出家した、先帝の八番目の皇子・応爾が秘密裏に有する私兵たち。彼らの表向きの冠位官職は様々であるが、共通することがただ一つ。今上帝を恨む八の宮に忠誠を誓い、暗殺・諜報といった任務にあたること。再び愛する者を取り戻すため、八の宮・応爾は復讐という名のゲームを続ける…!!
この説明だけではほとんどわからないと思うのでご説明を致します。このお話の主人公は、表紙に描かれている少年・小鬼丸。彼は、八の宮・応爾の私兵である“鬼”の一員で、その歳でありながら非常に冷静・かつ冷酷。物語は、彼が暗殺のために忍び込んだ屋敷にて、我が身を憂う姫に出会うことから始まります。簡単に言ってしまえば、この姫様と小鬼丸の、身分違いの頼りない恋物語ということなのですが、その背景が非常に厚い造りになっているので、そう話は単純ではありません。柱となるようなストーリーがいくつもあるので、これがメインというのは早計。一つの土台の上に、いくつもの想いが交錯し、複数の物語を紡ぎ出しているという感じですかね。

この物語の実質的な主人公は八の宮。あ、ふさふさしてるのは髪の毛じゃないですよ。出家してるので丸坊主です。
この物語の土台となっているのが、八の宮・応爾の復讐劇。八番目の皇子ではあるものの、身分的には次代の帝候補ナンバー2の位置にいた応爾は、当時の東宮候補ナンバー1であった同腹の兄・四の宮との後継争いに破れ、そのまま一気に転落の路を歩むことになります。元々東宮になることには興味がなかったものの、この経緯で失ったもの(愛する者や大切なもの)は大きく、彼に深い傷と復讐心を植え付けました。言ってみればこの物語は、彼の復讐劇の上に全てが成り立っているわけで、実質的な主人公は彼。
各話ごとにスポットが当てられる人物が変わり、彼・彼女らの視点から話が進められます。それぞれに過去と想いがあり、今を生きている。物語の進行によって話に厚みが出ると同時に、各話ごとでそれぞれの登場人物について詳しく描かれるので、深みも加わるという構造。元々の設定が難解な上に、こういった手法を取り入れてくるというのは、並大抵のことではできません。当然読み手側にも負担はかかってきますが、慣れてしまえばこちらのもの。非常に味わい深い物語として、どっぷりと楽しむことができるでしょう。
平安時代ということでは、『暁の闇』(→レビュー)という良作もあります。あちらがよりスタイリッシュだとすれば、こちらはより少女マンガ的。少女漫画でも、本気を出せばここまで厚みのある物語を描けるんだぞ、という好例。若干の読みにくさはありますが、読み応えは抜群。おすすめです。
【オトコ向け度:☆☆ 】
→平安時代って、少女マンガにしやすい背景があると思います。貴族たちが恋に歌にかまけてるっていう。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→始めはスゴく読みにくかったですが、後半気にならなくなりました。それどころか、夢中で読み進めている自分が。ラストの繫ぎも絶妙で、次を読みたくさせてくれます。良作の歴史物。
作品DATA
■著者:吟鳥子
■出版社:新書館
■レーベル:WINGS COMICS
■掲載誌:Wings('07年12月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:562円+税
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