このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] 2009.07.15
07219031.jpg小川彌生「キス&ネバークライ」(1)


彼女の手の温もり
今でも夢に見る
ぼくは なぜ あの手を
放してしまったのか



■アメリカに住む少女・黒城みちるは、フィギュアの選手だった両親の影響で、幼い頃からフィギュアスケートを習っていた。シングルスケーターとしての練習を重ねる彼女だったが、心のうちではアイスダンスに憧れていた。そんなみちると一緒にスケートを習っていたのが、ハーフの少年・礼音。みちるのわがままに付き合わされるように、練習の合間を縫ってアイスダンスを習い始める。そんなある夜、みちるの身にとある出来事が降りかかり…

 「君はペット」でおなじみの小川彌生先生の連載作品です。物語は、あらまし紹介にあるように、アメリカから始まります。そこで出会った、みちると礼音。まだ小学生のふたりは、無邪気に少年・少女時代を過ごします。しかし突然決まった、みちるの帰国。それを嫌がったみちるは、家出を決行。周囲の人間たちは、彼女の失踪に慌てふためきます。その後無事みちるは発見されるのですが、どうにも様子がおかしい。あんなにも快活だった彼女が、まるで感情を失ったかのように大人しくなってしまっていたのです。さらに翌日、彼女達を教えていたコーチが、変死体となって発見。混乱のままに、みちるの帰国の日は訪れます。そして時は流れ、6年後…みちるは新進気鋭のスケーターに、一方の礼音は、バレエダンサーとして日々練習を重ねる毎日を送っていた…という流れ


キス&ネバークライ
このシーンが描かれて以降、どんなことがあってもみちる擁護派にまわった私。ラブコメすぎだろーが!


 さて、ここまでの説明でわかるかと思うのですが、単純なスポーツ作品ではありません。スケートに打ち込むヒロインと、それを支える人間たちとの関係、そしてトラウマとして残るヒロインの過去…この3つが交錯し、さまざまな味わい方のできる美味しい作品になっています。ちなみにスケートの種目は、シングルスではなく、アイスダンス。どうにもシングルススケーティングが嫌になってしまったみちるに、母親がアイスダンスを薦めたことがきっかけになります。礼音はスケートを止めているので、側から支えるという立ち位置。バレエのスキルアップのためにアメリカから日本へ渡り、そこでみちると再会することから物語は本格始動していきます。
 
 過去のトラウマによって、かなり不安定で取っつきづらいヒロインのみちる。こりゃ好き嫌い別れるだろうなぁ…。ただ個人的には好きですね。心に傷があるとはいえ、ちょっと節操がないとは思いますが、この甘え方をリアルでされたら結構くるものがあるんじゃないですかね?見ためも良いって設定ですし、なにより久々に再会した幼なじみですし。ってこれはあくまで礼音的な立場から語っているわけなんですが…。
 
 この作品、スポ根・ラブコメ・ミステリーで3分割するならば、4:4:2ぐらいの魅力じゃないでしょうか。引っぱり具合はミステリーで大きい気がしますが、何があったかなんて明々白々。で、それを恋愛・スポーツにどう生かすかが大切なわけで、やっぱり結果として効いてくるのはそこの2つなんじゃないかな、と。あ、小川先生らしく、笑わせるとこはしっかり笑わせてきますよ。その辺も、安心の小川クオリティ。


【男性へのガイド】
→描かれるのはみちるについてですが、視点自体はその多くが礼音なので、男性は入りこみやすいはず。笑いの混ぜ方も上手いですし、読みやすいんじゃないでしょうか。ヒロインがネックっちゃあネックですけど。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→さすがお上手。物語を面白くする方法を知っています。当然オススメ。


作品DATA
■著者:小川彌生
■出版社:講談社
■レーベル:KC Kiss
■掲載誌:Kiss(2006年No.7~連載中)
■既刊6巻

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「Kiss」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。