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Tag [オススメ] [新作レビュー] [読み切り/短編] 2009.07.25
sayonarawatashitachi.jpg香魚子「さよなら私たち」


残酷な運命は
少女たちを
美しくさせる



■人気小説のコミカライズ「妖精と伯爵」(→レビュー)を好評連載中の香魚子先生の、初オリジナル読切り集です。いつもであればあらまし紹介から入るのですが、今回はちょっとスタイルを変更。なんていうか、とにかく素晴らしかったのですよ。まず表紙がね、これだけでなんとなくイイ雰囲気じゃないですか?それでワクワクしながら読みはじめたのですが、中身もホームランでした。「妖精と伯爵」がまずまずの良作に仕上がっているので、こちらもそれなりの水準にはあるのだろうな、とは予想していたのですが、良い意味でその予想を裏切ってくれました。これはスゴい。

 収録されているのは、読切り5編なのですが、全ての話が一風変わった設定となっており、どれも少女漫画っぽくないストーリーに仕上がっています。それでは各話のあらましを少しずつご紹介致しましょう…

『時をかける前に』
…舞台は2025年。未来からタイムマシンによって情報が送られてくる時代。そんなある日、原木悠のクラスに未来からの留学生がやってくる…。

『おとうとくん』
…平穏な学校に、ある日突然送られてきた爆破予告の手紙。そんな中、仲の良い男友達から「自分の弟が犯人かもしれない」と聞かされて…

『失恋ファミリーレストラン』
…彼氏からの電話に出たら、なぜか女の声が。呼び出されるままにファミレスへ向かうと、そこには4人の女の子がいた。なんと彼女達は、彼氏の浮気相手達で…!?

『Us,you and me』
…漫画家志望の加藤えりは、同じクラスの作家志望・琴平蘭子とコンビを組み、マンガを描き始める。応募作品は即入選、トントン拍子でデビューが決まったが…

『さよなら私たち』
…気がついたら、三途の川の前に立っていた。見知らぬ女の子の手を握って。手を離さなくては三途の川を渡れないのだが、離そうにも離れない。「どうしてそうなったのか、理由を調べてきなさい」案内係にそう言われ、二人の少女は再び下界に降り立つが…


 これでお分かりだと思うのですが、物語の舞台は現代・近未来・死後の世界と実に様々。話も、少女マンガらしい恋愛色が出ているのは『時をかけるまえに』ぐらいで、どれもマーガレットらしからぬストーリーとなっています。特に5股かけられた女達が一堂に会する『失恋ファミリーレストラン』は、設定からオチまで驚きっぱなし。これ少女マンガでOKなんすか?いや、面白かったけども。また、ラスト2作はやや百合っぽいお話になってます。覚醒前の榎本ナリコぽい気もするし、浅野いにおっぽい気もする…いや、どちらもそんなに似てないか。いやね、とりあえずビックリしたってことです。掲載誌がマーガレット系でなければこれほどまでには驚かなかったかもしれませんが、それでもスゴいと思います、はい。


さよなら私たち
キレイな感情だけを描こうなんて気は毛頭ない。だからこそ、惹かれる。


 『妖精と伯爵』の連載なんかとっとと終わらせて、早いとこオリジナルストーリーを…(こら)。今年の集英社の若手作家さんの作品では、サトーユキエ『子供だって大人になる』(→レビュー)や安藤ゆき『不思議なひと』(→レビュー)あたりが印象的でしたが、ここにきてさらにもう1作追加。集英社の未来は明るい。


【男性へのガイド】
→マンガ好きなら読むべき。男性でも全然大丈夫。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→予想外の内容に驚き。これは強く推したい。物語が面白いってのはもちろんですが、マーガレット系でここまでできるってのもスゴい。


作品DATA
■著者:香魚子
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:デラックスマーガレット(平成18年1月号,平成21年7月号),ザマーガレット(平成18年3月号,平成19年4月号), 別冊マーガレット(平成17年8月号)
■全1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「別冊マーガレット」コメント (4)トラックバック(0)TOP▲
コメント

こんにちは。

本屋で見かける『伯爵と妖精』が気になっていて読んでみようかと思っていたのですが、同じ作者の短編集が並んで置いてあって、表紙にひかれたこともあって、お試しで買ってみました。

香魚子さんの作品は初めてでしたが、いいですね。
とくに『時をかけるまえに』が素晴らしい。切なくて胸がキュンとする体験ができました。

掲載の古い作品は(真ん中の3つ)・・・まだまだ荒削りな印象を受けましたが、ほんの数年の間に作者もだいぶ成長したようで(『時をかけるまえに』が最新なんですね)、今後の作品が楽しみですね。

『伯爵と妖精』も読んでみます。
From: しろくま * 2010/03/14 21:11 * URL * [Edit] *  top↑
コメントありがとうございました。
全体的に少女漫画っぽくない感じが、とても気に入りました。
「妖精と伯爵」も良い雰囲気の作品で、評判が良いようなので、機会があれば是非チェックしてみてください。
From: いづき * 2010/03/15 23:43 * URL * [Edit] *  top↑
はじめまして。
「さよなら私たち」読みました。
私は先に「伯爵と妖精」を読んで、絵が好みだったのでこちらも読んでみたのですが、とても面白かったです。
『さよなら私たち』が特にお気に入りで、最後の一言でちょっと泣きそうになったりもしました。

そういえば、香魚子さんの単行本(伯爵と妖精ではない)が発売されてましたよ。
(知ってたらスミマセン…)

そっちも読んでみます。
From: いちご * 2011/02/01 18:21 * URL * [Edit] *  top↑
コメントありがとうございます!
さよなら私達は衝撃でした。
これからも大切に読み返すと思います。

新刊の「隣の彼方」もレビューしておりますー
おヒマのときはどうぞ。
From: いづき@管理人 * 2011/02/06 10:24 * URL * [Edit] *  top↑

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