
あたしたちは どこへいくのか わからないけれど
はるかむこうに
灯りが みえる
■10巻発売しました。繋がりのあるオムニバス集なのですが、今回はAct2のあらましをご紹介しましょう。
ここはのんびりした町で、山はうなるほどあるけど海には遠い。夏は暑くて冬は寒い。そんな町の普通高に通うカンナは、いつも3人のクラスメイトと一緒に過ごしている。同じ団地の上下階で、小さい頃からずっと一緒の幼なじみ・ハルタと、勉強が人一倍できる朝美、そして朝美と同中の真山。女2人と男2人、何をするにも一緒だった。ところが最近、真山の距離感が近い。幼なじみのハルタとは、キスはするものの、それが恋人のそれかは判然としない。なんだかふわふわしたまま、季節は夏に。未来の私たちは、どうなってるんだろ。そんなことを考えていると突然、ハルタが交通事故に遭ったとの連絡が入り…
講談社漫画賞受賞。あらまし紹介なんかじゃこの作品の魅力は伝わんねーよ(自分の文才の無さは棚に上げる)。というわけで、「潔く柔く」のご紹介です。話はオムニバス形式で、主に恋愛模様を中心に描いていきます。しかし各話それぞれが繋がっており、最終的に一つの物語として完結していくという流れにあると思われます。物語の系譜は大きく分けて二つあり、一つがあらまし紹介で出て来たカンナを中心とした4人組の物語。そしてもう一つが、ACT6にて登場する、赤沢禄を中心とするお話。え、なんでACT6?と思われた方もいるかもしれませんが、物語の源流を辿るとこの二つに行き着くのです(多分)。ACT6に関わってくるお話は、ACT1にて描かれているので、二つの流れが最初から見える形にはなっています。

ハルタとカンナ。この数週間後、ハルタが亡くなり、以降カンナの中にはしこりが残り続ける。
章(ACT)毎に視点が切り替わるのですが、そこが上手いところでもあり、もどかしいところでもあります。1巻だけでも美味しいのですが、やはり巻を重ねてこそ、その面白みは増していきます。個人的にはせめて4巻まで読んで欲しい!と思うのですが、それだと難しいですかね?恋愛メインのオムニバスで、確認が恋愛成就ないし失恋する段階で終了という展開が多いので、その辺は実にサラッとしていて爽やか。でも同時に温かみも感じられるようになっています。ただ根底にあるのは、恋愛ではなく、生と死という要素。さきほどACT1ではなく、ACT6を流れの根源としたのは、なにも時系列的な問題だけではありません。
数年前に流行った「世界の中心で愛を叫ぶ」という作品がありますが、あの中で、主人公の祖父が、最愛の人の遺骨を主人公とその彼女に盗みに行かせるシーンがあります。そして数年後、今度はその主人公が最愛の人を亡くし、その人の遺骨をずっと持ったままいるようになります。最後はその遺骨を手放してめでたしめでたし…という話で、要は最愛の人を亡くした喪失感から、どう再生して行くかがテーマになっていたんですよね。その縛りとして、遺骨というアイテムを使った(ここまで鈴木謙介の言)。この「潔く柔く」も、最愛の人とは言わないまでも、近くにいた人の「死」が一つのキーとなっています。そうした場合、主人公として浮かび上がってくるのは、ACT1の梶間ではなく、ACT6の禄なんですよね。そこからの再生というのが、物語の大きな一つのテーマになっているのではないでしょうか。禄はともかく、カンナは間違いないと思うんですけど。
そう考えると、ACT1(とACT3)の存在意義は?という考えが浮かび上がってきます。実は昨日帰りが遅くなったのは、友人と「潔く柔く」を肴に語り合っていたからなんですが(笑)、そこでこの話題が出てきたんですよね。ひとつ、三崎亜記の「失われた街」という小説で、プロローグとエピローグを逆転させるという手法が用いられたことがあり、これもその一つなのかな、と考えたのですが(ACT1が時系列的に一番進んでいるので)、ACT1の内容がエピローグになるとは到底思えない(現時点では)。うーむ、解せん。やっぱり方向転換が要因なのかなぁ、と。作品の出来を落とすようなファクターではないので、気にする必要はないのですが、様式美にこだわるならば、ACT1(とACT3)は少々邪魔だったかな、という気も。
さて、なんだか作品紹介じゃなく、いろいろ語ってしまいましたが(笑)、漫画賞を受賞しているように、その作品の出来は折り紙付きです。漫画好きなら読んでおけ、というような作品。少女マンガなのですが、深いです、上手いです。
【男性へのガイド】
→男性にも読みやすいと思いますよ。甘さ控えめで、心地よい風味を醸し出している感じ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→出来の良さは言う事無し。もちろんオススメでございます。
作品DATA
■著者:いくえみ綾
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:クッキー(平成16年3月号~連載中)
■既刊10巻
■購入する→Amazon