
笑ってくれたら
それだけでうれしい
■和菓子屋の看板娘・夕子と、喫茶店のマスター・将一は、昔からずっと一緒に育ってきた、くされ縁の幼なじみ。惚れっぽい将一が失恋する度に、好物のぼた餅を差しいれてあげる優子は、実はずっと、将一に密かな想いを抱いていた。周囲からしたら、感情だだ漏れ。けれど、ニブい将一は全く気づかない。こんな関係のまま、いったいどれだけ経ったのだろう、そして、いつまでこのままなんだろう…。そんな夕子に、ある日お見合い話が持ち上がり…!?
松田円先生といえば、「サクラ町さいず」(→レビュー)でおなじみの4コマ作家さんでございます。そんな先生の、4コマではないストーリーもの。幼なじみへの届かぬ想いを抱える、和菓子屋の娘さんの姿を、優しく切なく、そして温かく描き出します。連載開始は2006年、ひとつ前に紹介した井上トモコ先生の「はこいり良品」(→レビュー)も、1巻発売までに時間を要しましたが、こちらもなかなか。3年以上の連載分が、1冊に濃縮。分量はそう変わらないでしょ?なんて思うかもしれませんが、ページ数同様に、掲載期間ってのも意外と物語の濃度に影響してくるものなんですよ(あくまで私の中でのイメージですが)。

将一のほうが歳上です。ただ精神年齢は夕子のが上って感じですかね。フッとモノローグを差し込み、さりげない表情の変化を加え、一気に雰囲気を変えるのが上手。
話の内容は、あらまし紹介の通り。余計なストーリーを付け加えず、軸となる夕子の感情の機微を浮き立たせることに集中します。想い続けても、気づいてさえもらえない…いわば不毛とも思える感情を抱える夕子ですが、だからといってどうにかしようという気持ちはなく、あくまで「このままで良い」というスタンス。普段は努めて「幼なじみ」を貫き、気落ちした将一に特製のぼた餅を届け、時にケンカをするといった感じ。ケンカになるのは、夕子が将一に恋心を抱いているから。鈍感で無神経すぎる将一もいけないんですけどね、まぁ幼なじみの距離感なんてこんなものかもしれませんね。そんな二人の関係にちょっとした変化をもたらすのが、夕子のお見合い相手である三好。駅前の高級菓子店の息子である彼は、夕子の将一への想いに気づきながらも、夕子へ積極アプローチを見せます。そしてそんな二人を見て焦った将一は…なんてことにはならず、あくまで描くのは夕子の気持ち。簡単に甘い方向に持っていかない姿勢には、ただただ感服します。
クリームソーダに始まり、今はココアを作ってあげる将一に、ぼた餅を作って届けてあげる夕子。二人の間には、いつも甘味の存在がありました。甘味でつながる恋物語なんて、なんだか素敵じゃないですか。物語自体は決して甘くはないんですけどね。また脇役である三好もまた、好敵手でありながら、感情移入せざるを得ない背景を持つ、非常に素敵なキャラ。いや、素敵ってのはちょっと違うのかな。何というか、それぞれのキャラの情けない部分に、自分を映し出し、そして頑張っている姿に未来の自分を重ね、鼓舞していく、そんな感じの存在というか。良くも悪くも感情移入せざるを得ないんですよね。
1話目からしっかりとヒロインの感情を描き出し、読み手をグッと引き寄せる。ページ数の限られた中でこういったことをしっかりしてくるってのは、結構スゴいこと。ここで、長谷川スズの「リカってば!」を思い出したのですが、あちらも同じく芳文社のストーリーもの。4コマ作家だから描けるというわけではなく、4コマメインの掲載誌だからそうさせるって感じが強いのかな。
【男性へのガイド】
→「片想い」というワードでピンときた方は、是非一読あれ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→個人的にこういう「自分の気持ちに整理を付ける」系の話は大好き。4コマ作家さんですから、笑いのツボもしっかりおさえていますし、切ないラブコメとしてひとつ。
作品DATA
■著者:松田円
■出版社:芳文社
■レーベル:MANGA TIME COMICS STORY
■掲載誌:まんがタイムスペシャル(2006年5月号~2009年7月号)
■全1巻
■価格:619円+税
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