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高屋奈月「星は歌う」
高屋奈月「星は歌う」(6)
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もう一度?■6巻発売です~。
千広くんと、どんどん距離が近くなっている…。気がつけば、どんどん千広くんに心惹かれていく…。そんなサクヤに聖から渡されたのは、千広の過去に関する資料。そこには、東京での悲しい事件、そして、千広にとって忘れられない女の子・桜の存在が記されていた。全てを知った今、千広に会うためにサクヤは立ち上がり…!?
のっけからこんな子と言うのもなんなのですが、わたし千広みたいな男が大嫌いでして。そりゃあ、親から拒絶されて、さらに拠り所になっていた桜にも、結果として裏切られる形になったわけですから、当然精神的ダメージは大きいです。簡単に立ち直れるわけでもありません。けれど、全てを拒絶して、もはや前に進もうという意思すら見せないその無気力さ、それに加えて、他者を拒絶するようで、実は人一倍求めているっていう、それがどうにもダメで。事態は実に深刻…けれど、それをあからさまに見せつけられると、ウザイんですよ。「くだらない」の一言で片付けるお前が一番くだらないんだよ!!というか。そんな鬱鬱とした展開を、特に5巻から見せつけられていたわけですが、ついにやってくれました、ユーリが…

バカ男
!!
ィィイヤッフゥゥゥゥ!!いや、これも爽快ですが、この後の台詞がとにかく最高でした。
「そんなこと考えるヒマあんならなぁ
サクに会いにいけ。今すぐ会いにいけ!!」
「…オレはなぁ
おまえが今までどういう風に生きてきたとか、知らねーし興味もねーし
縁切られても痛くも痒くもねーけどなぁっ
でもおまえも見きろうとすんのはえーんだよ!
おまえの小せぇ頭ン中の他人像がすべてと思うなバーカ!!」
この言葉が欲しかった。それを言うのがユーリってのは、意外と言えば意外ではあったのですが、何はともあれ言ってくれてありがとう!!前半の展開的に、お互いの傷を拠り所にして結ばれあい、ただただその傷を舐めあうだけの、下らない展開になるのかと危惧していたのですが、そんなことはなかった。高屋先生…疑ってごめんなさい。
サクと千広は、同じ傷を持つ者同士で、ステージ(精神的状態の)としては同じ高さにいます。同じ高さにいるもの同士というのは、非常にくっつきやすい(同じ拠り所ができるので)のですが、同時に、上のステージに上がり辛くもなってしまいます。上にあがっていくには、違うステージの人間の助力が必要とするか、もしくはどちらかが一段上に上がり(そんなことは稀だけど)、ひっぱり上げなくてはならないわけですが、6巻までの状況を表すならば、サクヤは自力で上がりつつあり、千広はユーリに引っぱり上げてもらった形になるんじゃないでしょうか。何をいいたいかというと、とりあえず千広に関しては一つ決着がついたわけで、良かった良かった、と。陰と陽で表すならば、サクヤと千広は陰で、ユーリは陽。この役目を担えるのは、結果として彼しかいなかったのかもしれません、何はともあれ、ユーリカッコいいよ、ユーリ。
ちなみに6巻では、もう一人何かしらの決着がついた方がいらっしゃいます。それが、せーちゃん。5巻ラストで、いきなりサクヤに千広の過去のことを伝えるなど、非常に「らしくない」行動をとっていた彼女ですが、それは、見込みのない恋をするサクヤ(少なくともせーちゃんにはそう見えた)を、自分に重ねてしまったからでした。序盤から、先生に好意を持っていることが描かれると同時に、何か含みがあるような、伏線の匂いも若干していた気がしたのですが、全然そんなことありませんでした。事の経緯は、単純にせーちゃんが先生に惚れて、フラレてしまったというだけ。そこでの傷が、サクヤへの愛と混ざりあい、結果として彼女をあのような行動に走らせてしまったのでした。結局4人の中で、一番子どもだったのは、せーちゃんだったんですね。半ばでは、もっともっと深い傷を持っているサクヤから、慰められる始末。そこで涙を流すせーちゃんが、またかわいいじゃないですか。というか、開始当初は一番弱いように見えたサクヤが、今や周囲の人間の支えになっているという不思議。

せーちゃんだけでなく、千広も、サクヤも痛いです。でも、その痛さを真っ向から描くからこそ、この作品は素敵に輝くのだと思います。
2人にとりあえずの決着がでた6巻。ラストも珍しく、非常に後味の良い終わり方をしています。もうこのまま[完]ってつけてもいいんじゃないかって言うくらい。ただサクヤに関しては、まだまだ決着がついたとは言い難い段階。これからは正統派恋愛色が若干強くなってきそうですが、それでけで回すことはきっとないだろうなぁ。奏に関しても、展開させようと思えばできそうですし。高屋作品独特の重さを保ちながら、時折爽やかに、そして時折痛く。ここまで我慢して読んできて良かった!7巻も楽しみです。
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