
あのお母さんに守られて
きみはそんなに大きくなった
私は一度でも
自分以外の誰かのために
走ったことがあっただろうか
■ドイツ語専門の翻訳家として働く、伊勢一三子・33歳独身。長い間恋人はおらず、仕事にばかり打ち込んできた。翻訳家になることは学生時代からの夢で、夢を叶えた今、毎日こなす仕事は楽しくて仕方がない。しかし、そんな彼女に実家の母はご立腹。早いところ身を固めて、孫の顔を見せて欲しいとせがむのだ。そんな中、図書館でひょんなことから出会った元気一杯な少年・草市と出会い、ひとときを過ごすようになるが…!?
谷川先生の新作来ました!表題作に加え、もう1シリーズが収録されています。表題作「P.S.アイラブユー」は、仕事に打ち込む独身女性がヒロイン。学生時代からの夢をかなえ、日々の仕事が楽しくて仕方がない彼女。初めて付き合った彼からのプロポーズも断り、今も恋人は作っていない。そんな仕事一筋の彼女が、図書館でひょんなことから少年と出会い、仕事以外での選択肢について考えるようになります。この道を選んだことに後悔はないものの、結婚して子どもを産んで、主婦として暮らすという選択肢も、女である以上当然あったはずで、その可能性をヒロインは、少年と日々を過ごすことで、まざまざと見せつけられることになります。いわゆる「負け犬」とはニュアンスが異なり、こうやって、過去の選択肢や可能性に想いを馳せることもあるよね、というお話。現時点では叶いそうもない可能性を、少年との出会いによって疑似体験し、さらにそこから、今の自分を認めていくことへ繋げていきます。谷川先生ですから、派手なことはやってきません。描くのは、あくまで日常の欠片。相変わらずハートフルで、素敵な物語を紡いでいます。

今進む道が正しいと再認識するためにも、過去の選択肢に想いを馳せるってのは大切。いや、そこ発信でなくとも、結果としてそういう結論に辿り着ければ嬉しいよね、という。
同時収録の「Room201」は、彗星が地球に近づいてきた日の人々の姿を描いた読切りが、計3編描かれています。うち二つは、恋人同士のすれ違いを描いたお話。この辺はまさに谷川節という感じで、安心して読み込むことが出来ます。またもう一つも、家族愛を描きつつも、同時に過去の恋愛について想いを馳せるという、なかなか素敵なお話。「P.S.アイラブユー」も「Room201」のどちらもハートフルで素敵なお話でしたが、「Room201」のほうがより谷川先生っぽい感じですかね。
全部で5話収録されているのですが、そのうち3編の主人公の仕事が、どこか特殊。表題作のヒロインは翻訳家で、他には俳優、そして小説家と、私たちにはあまり馴染みのないお仕事をしている人間が主人公となっています。それでも描き出すのは、日常に溢れる優しさであったり、弱さであったり、情けなさであったりという、ありふれた身近な感情。このギャップがまた良いともいえますが、わざわざこういう設定にする狙いとかって、あるのだろうか。なんだか不思議。
■作者他作品レビュー
谷川史子「手紙」
【男性へのガイド】
→谷川先生好きの男性は多い。この作品もオススメです。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→もちろんオススメですが、今作はややインパクトに欠けたかな、という感じ。たぶんこれは、切なさ成分が少なかったからじゃなかろうか、と。その分ハートフルさが出ているので、そういった要素が強いほうがいいという方は。
作品DATA
■著者:谷川史子
■出版社:集英社
■レーベル:クイーンズコミックスコーラス
■掲載誌:コーラス(2008年8月号,9月号,2009年4月号~6月号)
■全1巻
■価格:419円+税
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