作品紹介はこちら→田村由美「7SEEDS」
田村由美「7SEEDS(セブンシーズ)」(16)
それが人だと
人がそうだと言うなら
僕は獣でいい
彼らと同じがいい
■16巻でございますよ。相変わらずクオリティを落とさずに話が進んでいることがスゴい。アメリカのドラマ「LOST」はこれを見習うべき。
~あらまし~
安吾と涼の追放という、予想外の展開になった16巻。花たちと合流して以来、その弱さばかりが露呈し、完全な悪者となってしまった安吾に、今回は注目してみましょう。というか、注目せざるを得ない。同じ環境から輩出されたにも関わらず、他のメンバーと打ち解け残留することになった夏Aの4人と、追放されることになった2人。両者との間には、どんな違いがあったのでしょうか?
~温室育ちの生き方~
これはどちらにも言えることですが、彼らはその道のエキスパートとして、いわば存在理由を与えられた上で未来に送り込まれました。これは逆に言えば、その道以外では存在意義がない(と刷り込まれる)ことであり、非常に強力な武器になると同時に、それが崩れたらお終いという爆弾を抱えることにもなります。彼らは未来に来てからも、自分の「すべきこと」に執着し、それだけを拠り所として生き抜いてきました。鷭は医療、虹子は建築,源五郎は動物、マドンナあゆは植物、そして小瑠璃は風。では、安吾と涼はというと、本来の役割は、火と水…のはずでした。
火は、火を起こしたり、狩猟や格闘といった役割をこなし、また水は、飲み水の確保や井戸の確保や海に関しての知識などで貢献します。安吾と涼は、どちらも火と水のクラスを選択しており、共に同じ命題を背負って未来に送りこまれたと言えます。しかし実際には、その枠のみの収まることはありませんでした。狩猟は全員協力で、水に関しては建築の虹子の寄与する部分が大きいなど、本来の役割領域に他の領域が入り込んできたということがまずあり、その結果他の専科が及ばない範囲…ここでは特に、格闘や支配と言った部分にウェイトが集まってしまったように映りました。やたらと銃器に頼ってた感じがあったし。そして何より、二人…特に安吾は、余計なものを持ち込みすぎだったように思います。縦割り分業である以上、過不足無く自分の仕事をこなすべきなのですが(小瑠璃の「風」なんて役割は、そこまで役に立つと思えないんだけど、その中で自分の役割を全うしたからこそ、あの位置に落ち着けた)。

7巻、穀雨の章「ワルキューレの騎行」より。リーダーシップを執るために、火と水を選択した。
~残った者たちとの違いとは~
率先してリーダーシップをとってきた安吾ですが、実は「リーダーをやれ」と決められていたわけではないんですよね。誰かに明言されたわけでもなく、自ずから「リーダー」になることを考えていた。もうこの時点で、彼は「リーダー」という役割に縛られてしまうんですよ。「火」よりも「水」よりも、まず「リーダー」だった。その気の入れようの差は、もう例を挙げずとも随所に表れていました。しかしそれが、他のチームの人間と出会うことで、崩れていってしまう。そりゃもう不安ですよ、だって「リーダー」であることが彼の存在意義なわけですから、それが否定されたら、彼の存在自体が否定されることになってしまう。だからこそそれを守ろうと、必死に力を見せつけます。しかしそれが結果として裏目に。自分の本来の役割(火か水)だけをこなしていれば楽だったのでしょうが、彼自身がそれを許さなかったのです(茂の影響が、さらにそれを後押ししたのかも)。他のメンバーは、予め与えられた命題の中で行動しています。

自分の存在意義を見失い、苦悩する安吾。ただこれは、逆に考えれば、枠を壊す過程にも取れるわけで、これからの展開に注目される。
そして、涼もまた自分の役割を、火と水の領域以外に見出していました…

安吾に殺しをさせない代わりに、自分が殺す。でもすでに安吾は十六夜を殺してるよね。まぁあれは体裁的にも「仲間」という段階ではなかったからいいのか。
彼の見出した役目は、安吾の代わりに彼を不安定にする者を殺すこと。言うなれば、安吾の保護者の役目です。そういった役割を見出してしまった以上、もう彼は安吾についていくしかないんですよね。もし彼の悪事がバレず、結果として安吾のみが追放という結果になったとしても、涼は安吾についていったんじゃないかなぁ、という気がします。
目的を完全に見失った安吾。彼がこの世界で、逞しく生きていくには、何かしらのきっかけが必要になります。多分その鍵を握っているのは、百舌。16巻ラストでは、どうやら百舌との対面がありそうだなぁ、という気配。誰か死ぬ気がしてならないのですが、どうなるのでしょうか。楽しみで仕方ありません。ちなみに16巻の一番の見所は、新巻さんに限ると思います。荒巻さんについてはほとんど書かなかったのですが、これは惚れる。「7SEEDSで一番イイ男は荒巻さん」と主張し続けてきた者としては、この展開はなんとも嬉しい限り。
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bk1

それが人だと
人がそうだと言うなら
僕は獣でいい
彼らと同じがいい
■16巻でございますよ。相変わらずクオリティを落とさずに話が進んでいることがスゴい。アメリカのドラマ「LOST」はこれを見習うべき。
~あらまし~
夏Aチームの中心人物である安吾と涼は、春チームの花を、貴士先生の娘であるという理由から、目の敵にする。そして積み重なった憎悪は、やがて激しい殺意へ。爆発寸前の安吾の気配を読み取った涼は、水源を探すという名目で花を洞窟の縦穴へ降ろし、その途中で命綱を切断。そのまま縦穴に落下した花は、奇跡的に助かるものの、そこは暗闇の広がる絶望的な空間だった…
という所で終わった前巻。この後洞窟の底を彷徨った花は、やがて水脈近くで、別行動をとっていた安吾に遭遇します。突然の事態にパニックになった花は、後ずさりした勢いで、誤って水脈に落下。涼の言葉を信じずに、洞窟に花の捜索に来ていた新巻,ハル,源五郎,小瑠璃,鷭の5人は、異変に気づき洞穴の底へ。そこで溺れる花を発見し、救出を試みますが、流れの速さの前に成す術無く、花はそのまま行方不明に。涼が花を殺そうとしたこと、そして溺れる花を目の前に、何もすることなくただ傍観していた安吾に、チーム関係なく避難が集中。さらに安吾による、花へのレイプ未遂まで明るみに出たことで、最終的に安吾と涼はは追放されることになります。
という所で終わった前巻。この後洞窟の底を彷徨った花は、やがて水脈近くで、別行動をとっていた安吾に遭遇します。突然の事態にパニックになった花は、後ずさりした勢いで、誤って水脈に落下。涼の言葉を信じずに、洞窟に花の捜索に来ていた新巻,ハル,源五郎,小瑠璃,鷭の5人は、異変に気づき洞穴の底へ。そこで溺れる花を発見し、救出を試みますが、流れの速さの前に成す術無く、花はそのまま行方不明に。涼が花を殺そうとしたこと、そして溺れる花を目の前に、何もすることなくただ傍観していた安吾に、チーム関係なく避難が集中。さらに安吾による、花へのレイプ未遂まで明るみに出たことで、最終的に安吾と涼はは追放されることになります。
安吾と涼の追放という、予想外の展開になった16巻。花たちと合流して以来、その弱さばかりが露呈し、完全な悪者となってしまった安吾に、今回は注目してみましょう。というか、注目せざるを得ない。同じ環境から輩出されたにも関わらず、他のメンバーと打ち解け残留することになった夏Aの4人と、追放されることになった2人。両者との間には、どんな違いがあったのでしょうか?
~温室育ちの生き方~
これはどちらにも言えることですが、彼らはその道のエキスパートとして、いわば存在理由を与えられた上で未来に送り込まれました。これは逆に言えば、その道以外では存在意義がない(と刷り込まれる)ことであり、非常に強力な武器になると同時に、それが崩れたらお終いという爆弾を抱えることにもなります。彼らは未来に来てからも、自分の「すべきこと」に執着し、それだけを拠り所として生き抜いてきました。鷭は医療、虹子は建築,源五郎は動物、マドンナあゆは植物、そして小瑠璃は風。では、安吾と涼はというと、本来の役割は、火と水…のはずでした。
火は、火を起こしたり、狩猟や格闘といった役割をこなし、また水は、飲み水の確保や井戸の確保や海に関しての知識などで貢献します。安吾と涼は、どちらも火と水のクラスを選択しており、共に同じ命題を背負って未来に送りこまれたと言えます。しかし実際には、その枠のみの収まることはありませんでした。狩猟は全員協力で、水に関しては建築の虹子の寄与する部分が大きいなど、本来の役割領域に他の領域が入り込んできたということがまずあり、その結果他の専科が及ばない範囲…ここでは特に、格闘や支配と言った部分にウェイトが集まってしまったように映りました。やたらと銃器に頼ってた感じがあったし。そして何より、二人…特に安吾は、余計なものを持ち込みすぎだったように思います。縦割り分業である以上、過不足無く自分の仕事をこなすべきなのですが(小瑠璃の「風」なんて役割は、そこまで役に立つと思えないんだけど、その中で自分の役割を全うしたからこそ、あの位置に落ち着けた)。

7巻、穀雨の章「ワルキューレの騎行」より。リーダーシップを執るために、火と水を選択した。
~残った者たちとの違いとは~
率先してリーダーシップをとってきた安吾ですが、実は「リーダーをやれ」と決められていたわけではないんですよね。誰かに明言されたわけでもなく、自ずから「リーダー」になることを考えていた。もうこの時点で、彼は「リーダー」という役割に縛られてしまうんですよ。「火」よりも「水」よりも、まず「リーダー」だった。その気の入れようの差は、もう例を挙げずとも随所に表れていました。しかしそれが、他のチームの人間と出会うことで、崩れていってしまう。そりゃもう不安ですよ、だって「リーダー」であることが彼の存在意義なわけですから、それが否定されたら、彼の存在自体が否定されることになってしまう。だからこそそれを守ろうと、必死に力を見せつけます。しかしそれが結果として裏目に。自分の本来の役割(火か水)だけをこなしていれば楽だったのでしょうが、彼自身がそれを許さなかったのです(茂の影響が、さらにそれを後押ししたのかも)。他のメンバーは、予め与えられた命題の中で行動しています。

自分の存在意義を見失い、苦悩する安吾。ただこれは、逆に考えれば、枠を壊す過程にも取れるわけで、これからの展開に注目される。
そして、涼もまた自分の役割を、火と水の領域以外に見出していました…

安吾に殺しをさせない代わりに、自分が殺す。でもすでに安吾は十六夜を殺してるよね。まぁあれは体裁的にも「仲間」という段階ではなかったからいいのか。
彼の見出した役目は、安吾の代わりに彼を不安定にする者を殺すこと。言うなれば、安吾の保護者の役目です。そういった役割を見出してしまった以上、もう彼は安吾についていくしかないんですよね。もし彼の悪事がバレず、結果として安吾のみが追放という結果になったとしても、涼は安吾についていったんじゃないかなぁ、という気がします。
目的を完全に見失った安吾。彼がこの世界で、逞しく生きていくには、何かしらのきっかけが必要になります。多分その鍵を握っているのは、百舌。16巻ラストでは、どうやら百舌との対面がありそうだなぁ、という気配。誰か死ぬ気がしてならないのですが、どうなるのでしょうか。楽しみで仕方ありません。ちなみに16巻の一番の見所は、新巻さんに限ると思います。荒巻さんについてはほとんど書かなかったのですが、これは惚れる。「7SEEDSで一番イイ男は荒巻さん」と主張し続けてきた者としては、この展開はなんとも嬉しい限り。
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