このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [オススメ] 2009.09.24
07214826.jpg都戸利津「環状白馬線車掌の英さん」


ここにゃ何も生まれねぇが
俺たちが街や人をつないで
生まれる何かもあるだろうさ
俺もだぁれもそれを知らねぇだけでな



■大きく円を描いてシティを循環する環状白馬線には、車掌の英さんが乗っています。乗り合わせる様々なお客様と、英さんはほんの少しだけ一緒に時を過ごします。「英さんと同じ電車に乗った人は幸せになれる」…どこからともなく生まれた噂。今日もまた、誰も知らない物語を紡ぎながら、英さんは白馬線に乗っています…

 コミックホームズの斉藤さんにご紹介していただきました。とりあえず、この作品を今までスルーしていたことが、酷く悔やまれました。とにかくスゴいの一言。感動しました~。
 
 物語の舞台は、20世紀初頭のヨーロッパを匂わせる大きめの都市。その市内をぐるっと回る環状線・白馬線の車掌をしている英さんが、このお話のメインパーソンになります。多くを語らず、必要とされる車掌の仕事を、過不足無く淡々とこなす英さん。物言いは若干ぶっきらぼうではあるものの、その丁寧で気の行き届いた態度から、乗客からの評判は上々。さらに、彼に関わった人が後々幸せになることが多いらしく、どこからともなく「英さんと同じ電車に乗った人は幸せになれる」という噂が流れてくるようになりました。このお話は、そんな英さんと、彼が関わった人々との間にそっと横たわる、小さな奇跡の物語を紡いだものになっています。


車掌の英さん
多くは語らないが、その少ない言葉がやけに胸に響く。


 正直この作品の魅力を伝えきる自信がないです。なんて説明すれば良いのか非常に悩ましいのですが、一言で表すならば「美しい物語」という表現が一番でしょうか。1話ごとに、いくつかのストーリーが絡まりあい、楽章を構成し、さらに物語全体としても、各話が絡み合い、一つの美しい旋律となって協奏曲を奏でるような、そんな美しさがこの物語にはあります。3話構成で、1話目はお客様がメイン、2話目はお客様と鉄道員たちがメイン、そして3話目は彼自身がメインと、そのバランス感も絶妙。群像劇のお手本…と言っても過言ではないと思うんだよなぁ。
 
 路線だけでなく人と人の想いまでつないでしまう英さん。その人柄は、実直で不器用。あくまで「車掌」を貫く彼の生き方は、何も頑固だからというわけではなく、彼なりの考えと過去があってのこと。お客さんと言葉を交わすことは少ないものの、彼らの間には不思議な信頼感を感じとることが出来ます。そんな英さんに、なんとなく「鉄道員」の面影を見てしまいました。いや、結構似てると思うのよ。そりゃ見ためや根底に流れるものは違うし、作品の雰囲気も異なるけれど、その仕事に対する態度とかさ。とりあえず、一度読んでみて欲しい、そんな作品でございます。当然オススメ。今月は「君に届け」で鉄板かな、なんて思ってたのですが、ちょっと迷うな。あとこの作品を読んだのが、友人達と旅行した帰り、夕日が眩しい中ひとり鈍行列車で…という絶好のシチュだったので、その辺も影響しているのかも。


【男性へのガイド】
→男性でも全然OK。物語好きなら一度読むべし。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→これはオススメせざるを得ないです。紹介してもらったからとか、そういったことは関係なしに。協奏曲って例えは、我ながら結構良いんじゃないかと今更ながら思ってきた。


作品DATA
■著者:都戸利津
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICSスペシャル
■掲載誌:別冊花とゆめ(平成18年11月号,平成20年8月号,11月号)
■全1巻
■価格:524円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「別冊花とゆめ」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。