都戸利津「環状白馬線車掌の英さん」
ここにゃ何も生まれねぇが
俺たちが街や人をつないで
生まれる何かもあるだろうさ
俺もだぁれもそれを知らねぇだけでな■大きく円を描いてシティを循環する環状白馬線には、車掌の英さんが乗っています。乗り合わせる様々なお客様と、英さんはほんの少しだけ一緒に時を過ごします。「英さんと同じ電車に乗った人は幸せになれる」…どこからともなく生まれた噂。今日もまた、誰も知らない物語を紡ぎながら、英さんは白馬線に乗っています…
コミックホームズの斉藤さんにご紹介していただきました。とりあえず、この作品を今までスルーしていたことが、酷く悔やまれました。とにかくスゴいの一言。感動しました~。
物語の舞台は、20世紀初頭のヨーロッパを匂わせる大きめの都市。その市内をぐるっと回る環状線・白馬線の車掌をしている英さんが、このお話のメインパーソンになります。多くを語らず、必要とされる車掌の仕事を、過不足無く淡々とこなす英さん。物言いは若干ぶっきらぼうではあるものの、その丁寧で気の行き届いた態度から、乗客からの評判は上々。さらに、彼に関わった人が後々幸せになることが多いらしく、どこからともなく「英さんと同じ電車に乗った人は幸せになれる」という噂が流れてくるようになりました。このお話は、そんな英さんと、彼が関わった人々との間にそっと横たわる、小さな奇跡の物語を紡いだものになっています。

多くは語らないが、その少ない言葉がやけに胸に響く。
正直この作品の魅力を伝えきる自信がないです。なんて説明すれば良いのか非常に悩ましいのですが、一言で表すならば「美しい物語」という表現が一番でしょうか。1話ごとに、いくつかのストーリーが絡まりあい、楽章を構成し、さらに物語全体としても、各話が絡み合い、一つの美しい旋律となって協奏曲を奏でるような、そんな美しさがこの物語にはあります。3話構成で、1話目はお客様がメイン、2話目はお客様と鉄道員たちがメイン、そして3話目は彼自身がメインと、そのバランス感も絶妙。群像劇のお手本…と言っても過言ではないと思うんだよなぁ。
路線だけでなく人と人の想いまでつないでしまう英さん。その人柄は、実直で不器用。あくまで「車掌」を貫く彼の生き方は、何も頑固だからというわけではなく、彼なりの考えと過去があってのこと。お客さんと言葉を交わすことは少ないものの、彼らの間には不思議な信頼感を感じとることが出来ます。そんな英さんに、なんとなく「鉄道員」の面影を見てしまいました。いや、結構似てると思うのよ。そりゃ見ためや根底に流れるものは違うし、作品の雰囲気も異なるけれど、その仕事に対する態度とかさ。とりあえず、一度読んでみて欲しい、そんな作品でございます。当然オススメ。今月は「君に届け」で鉄板かな、なんて思ってたのですが、ちょっと迷うな。あとこの作品を読んだのが、友人達と旅行した帰り、夕日が眩しい中ひとり鈍行列車で…という絶好のシチュだったので、その辺も影響しているのかも。
【男性へのガイド】→男性でも全然OK。物語好きなら一度読むべし。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】→これはオススメせざるを得ないです。紹介してもらったからとか、そういったことは関係なしに。協奏曲って例えは、我ながら結構良いんじゃないかと今更ながら思ってきた。
作品DATA■著者:都戸利津
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICSスペシャル
■掲載誌:別冊花とゆめ(平成18年11月号,平成20年8月号,11月号)
■全1巻
■価格:524円+税
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