このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2009.09.25
作品紹介はこちら→椎名軽穂「君に届け」


07227127.jpg椎名軽穂「君に届け」(9)


何を迷っていたのかな
…言いたいことが
たくさんあるの



■9巻について簡単にレビューしようかな、と。

お世話になっているサイト様でも多く感想が書かれているので、そちらもどうぞ

□空夢ノートさん:『君に届け・9』の感想
□遠藤ってば!さん:君に届け~9巻~
□Lovely Complex Loveさん:君に届け-9巻の感想!



 ケントの登場により、状況をかき回されまくった爽子たち。さぞ読者の皆さんは「ケントうざっ」っとお思いのことでしょう。もちろん私も「余計なことしやがって…」なんて思いました。でもケントのあの行動は、あくまで善意のもと行われているんですよね。だからこそ、タチが悪い。くるみちゃんは明確な悪意で、ケントは悪意以外による障害。この使い分けは上手いなぁ、と。
 
▶ケントについて
 嫌われ役を一手に引き受けることになったケントですが、そもそもやろうとしていたことは「爽子をクラスに溶け込ませたい」というもので、行動のベクトルとしては、風早くんやチズ&あやねと同じ。しかし結果としてここまで両者に差が出たのは、風早くんが爽子のことを同列以上として見ていたのに対し、ケントが爽子の事を、同列以下と捉えていたからではないのかな、という気がします。この意識の差が、こういった事態を引き起こした、と。でも実生活では、この「学校カースト」を意識しないなんて無理だと思うんですよね。このシチュエーションだと邪魔ですが、リアルであったとしたら、決して責められるような行動じゃないと思うんですよ。唯一責められていいと思うのは、その軽率さぐらいかな、と。特にくるみに対し「じゃーオレが貞子ちゃんとつきあったら、くるみ的によくね?」なんて言ったシーンは、ビンタされて然るべきだと思ったのです、はい。


▶爽子からの告白でないと、意味がない
 風早くんの決死の告白に対し、「(風早くんが)誤解されちゃう」と、要らぬ気遣いをしてそのメッセージを受けとることのなかった爽子。その原因は、言うまでもなくその鈍感さにあるわけですが、それはイコールで、彼女の自己評価の低さを表しています。この9巻、特に爽子が風早くんに告白に向かう過程というのは、単に「好きだ」と伝える以上に、同じ目線に自力で上がっていくという儀式的な要素が強く含まれており、これが成功した時点で、この作品の当初のテーマは達成されたことになるのではないかな、という気がします。だからこそ「風早くんの告白でOK」となるのではなく、あくまで「爽子が告白」という過程を踏まなければいけないワケで、そこに向かわせるために椎名先生はかなり苦心しているのだろうなぁ、と。


▶爽子の精神矯正のための、脇役たちの涙ぐましいサポート
 「爽子からの告白」=「爽子の鈍感さの矯正」という目的を達成するため、9巻ではとにかく脇役たちが頑張った。自己評価の低さが根深い爽子ですから、そう簡単に考えを変えることは出来ません。一度言っただけでは足りず、複数人が背中を押すような形になりました。

ちず「鈍さに慣れるな!!」

あやね「爽子もあたしたちも風早も、違いなんて何もないんだよ……爽子自身が違いを感じければね」

くるみ「鈍感だからでしょ!!」

龍「多分 あんた 言葉足らず」

ピン「翔太なんかお前が思ってるよーな立派な人間じゃねーから!!」

ケント「今 貞子ちゃんを暗い顔にさせるのも、泣かせるのも、笑わせられるのも…風早なんでしょ?応援するよ、頑張んなよ」


 どうだ、このラインナップ!こうまでされて、やっと動き出した爽子。特に序盤4人の言葉は、なかなか厳しいものがあるように思うのですが、それに関しては爽子はダメージを受けていません。この時点でだいぶ成長しているのかな。とりあえず最後に背中を押す役目を果たしたのが、ケントで良かったな、という気持ち。
 
 まぁこれは爽子レベルでの自分への卑下の感情を持っているからなんでしょうが、こういったことは別に私たちでも充分に起こりえるよね。億病で、自分の位置を守りたいがために、要らぬ気遣いをしてしまって、結局ダメになっちゃう。相手へのヘタな気遣いは、鈍感さの裏返しであって、そういった状況から脱却するには、これぐらいの精神矯正が必要なのよ、と。こういうことを言ってくれる友人がいれば幸せですが、そうでない場合はなかなか厳しいだろうなぁ。
 
 てかラストのこの切り方はズルい…別マ買いたくてしょうがないじゃないですか(笑)集英社の商売上手っぷりに思わず拍手をしちゃいそうになりました。


■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「別冊マーガレット」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
コメント

いづきさん、こんにちは!
さすが、的確な分析で、スゴイ!と思いました!
こんなにスゴイところに、りんくして下さって、大変恐縮です。。
どうもありがとうございました!
私のブログの方でも、ご紹介させていただきたいと思います。
From: yuyu * 2009/09/26 16:06 * URL * [Edit] *  top↑
こちらこそご紹介ありがとうございます。
的確かどうかは自分ではわかりませんが、言いたいことは書けたかな~、と。
とりあえずケントのフォローをしたかったのですが、微妙に終わってしまいました(笑)
普段お世話になりっぱなしですので、こういう形で貢献できればと思いリンクさせていただきました。
これからもよろしくお願いしますね( ゜∇゜)/
From: いづき * 2009/09/26 16:41 * URL * [Edit] *  top↑

管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。