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Tag [続刊レビュー] 2009.09.27
作品紹介はこちら→*新作レビュー*やまもり三香「シュガーズ」


07227298.jpgやまもり三香「シュガーズ」(2)


いつも1人
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■2巻発売です。相変わらず甘くもすっぱいラブストーリーが展開されています。2巻の帯に「男の子だって億病で傷ついて涙して恋をしている」とのフレーズがあるように、4編収録されてるうちの2編が男の子視点のお話。そのどちらもヘタレっぽくて、個人的には堪りませんでした。どうしてこうやまもり先生は、男の子のダメで弱い部分を描くのが上手なのでしょうか。あ~、たまらん。

 さて、1巻のレビューでは方式として志村志保子先生の「女の子の食卓」に似ていると書きましたが、2巻を読んで、やっぱり別物だな、という印象を受けました。大枠は、食べ物でつなぐ恋愛オムニバスということで同じなのですが、その展開の仕方が全然違う、と。「女の子の食卓」は基本的に各話が独立していて、お互いに繋がりはないのですが、「シュガーズ」は逆に、全てのお話に繋がりがあり、物語としての奥深さというか、読者への更なる楽しみを提供してくれます。しかもその人選がスゴいんだ。まず2巻初っぱなに登場したのは、1巻にて見事にフラレてしまったシュガーレスガール・白川。最初全然気づかなかったのですが、最後の人物相関図を見て「ああ!」と。2巻では、1巻の中心を構成した3年1組のメンバーに関連する人物たちが中心。2巻2話目では、1巻3話で登場した灰田くんの妹が主人公になり、また2巻4話では、1巻6話目でわずか2コマでふられた金原くんが主役と、その使い方がスゴい。
 
 脇役が、気がつけば主役になっているんですよね。オムニバスだからこそこういうことができるのですが、そう簡単にできることではありません。他人の物語を彩るために作られたキャラが、今度は自ら輝きを放つ。それを当たり前にやってのけるやまもり先生はスゴい!というか現実世界を考えると、全員が脇役で全員が主役であり、それぞれが物語を持っているということが当然なんですよね。それをオムニバスというたたき台を使って、マンガの中で再現しているというのが、なんとも素敵だな、と。描かれる物語も、決して甘さに溢れる派手な話ではないですし、そういった背景があるからこそ、そういった話が展開されると、「現実も、気の持ちようでこんなに素敵に輝くんじゃないか?」なんて思わせてくれたりして。

 2巻でますますその魅力を増した「シュガーズ」。3巻がさらに楽しみになってきました。巻を重ねるごとに物語が厚みを増すオムニバスって、少女漫画ではあまりないんですよ。あったとしても、それは恋愛軸での肥大はしていなかったりなので。それをやってのけるこの作品は、十分注目に値するな、と。そう思うのですよ。

 ちなみに2巻ではやや長めの読切りも同時収録。こちらは王子様に焦がれる生意気少女が主役。この話も少女漫画ど真ん中という感じのお話で、やまもり先生のスタンスが強く感じとれる作品となっています。


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