
僕はあありにも「普通」すぎる
そう思うから
あの人々の中にいていいのか、なんて考えてしまうんだ
■無事フランスでの任務を終え、ロンドンに帰還したコランタン号。だがやっとの思いで連れ帰った水底の子供・アンリは、あっという間に叔父の家の窮屈さに耐えかね、逃げ出してしまう。再びアンリの捜索の命を受けたルパートだったが、表れては消えるアンリに翻弄される。そして彼に導かれるように出向いたロンドン橋の上で、不思議な美人に出会うのだが…
コランタン号の航海の続編にあたります。多分前作から読んだほうが良いと思います。多少の説明はされるのかな、と思いきや、作者さんらしく余計な説明はせず、淡々と物語を進行させます。舞台は1800年代のロンドン。ナポレオンが健在で、イギリスはインドを植民地支配しているころ。主人公は、コランタン号の乗組員として、フランスでの任務を終えロンドンに帰還したルパート。このコランタン号というのが難解で、いわゆる幽霊船的な側面を持つ舟になります。当然のことながら幽霊が乗っていたり、わけのわからない猿が乗っていたり、普通の人間とおもったらとんでもない能力を持っていたりと。そんな中にあって、唯一と言っていいほど普通の軍人・ルパート。前作では水底の少年を連れ戻すという任務につき、無事水底の王国から青年・アンリ(水底の国で成長した)連れ戻したのですが、今作もまた彼がやらかします。

キャプテンキッドの亡霊まで出てきたりします。
普通の航海もの、歴史物と見せかけて、展開する話は完全なファンタジー。今回のお話は、ロンドン橋を守る美人の幽霊(?)と、ロンドン橋をめぐるお話となっています。「ロンドン橋落ちた♪」という歌もある、あれがモチーフ。近代化を進めるにあたって、水路を塞ぐように架かっているロンドン橋は、邪魔な存在でありました。しかし同時に、ロンドン橋はロンドンの象徴でもある。その橋を壊すか、守るか…その騒動に、ルパートは巻き込まれていきます。1800年代というと、産業革命が起こる前?だんだんと化学が根付いてきたころなのですが、この作品ではファンタジーと化学の狭間という立ち位置で話が展開され、なかなか興味深い内容になっています。1巻では航海に出ないのですが、多分出るんだろうなぁ。粗ぶる海の男達…というイメージが先行するものの、実のところはそれほど動きがありません。どちらかというと、しずかに淡々に…という感じ。常に緊張が張り詰めているものの、それを前に押し出すことはせず、話の腰を折る形で笑いが投入されるなど、動きの割に目を引きつけます。この辺は作者さんの上手さを感じるところ。歴史ファンタジーが好きだけど、派手さはそれほど求めないよ、という方にはうってつけかもしれませんね。
【男性へのガイド】
→男中心ではあるものの、いわゆる女性に媚を売るような描かれ方はされておらず、それなりに読みやすいかと。ただ動きがないので、そういったものが我慢できないと難しいかもしれません。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→続刊ですから、オススメはさすがに。親切に説明してくれるならいいものの、そういうことはされていないので。
作品DATA
■著者:山田睦月
■出版社:新書館
■レーベル:WINGS COMICS
■掲載誌:Wings('08年7月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:562円+税
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