
我らは先程の金魚鉢の中の金魚なのよ
何の役にも立たぬ大奥という金魚鉢の中でたた飼われていることが
我々の仕事なのだ
■5巻発売でございまする。
真っ赤な発疹が全身に広がり、やがて死に至る疫病・赤面疱瘡。瞬く間に全国に広がったその奇病は、なぜか男子のみに発症する。その病が出現して以降、男子の人口は瞬く間に減少。男の子は子種を持つ宝として大切に育てられ、婿入りも裕福な階級のみに許される特権に、そして気がつけば、あらゆる家業が女から女へと受け継がれるようになる。それは武家とて同じこと。将軍職もまた、三代・家光以降女子の継ぐところとなる。唯一の天下人である公方様のみに許される最高の贅沢
各所で賞も獲得し、今更感もある作品ですが、新刊発売ということでレビューいたします。作者はいわずもがなの名手・よしながふみ。もう「よしながふみ」と言っとけばOKみたいな空気すら出来てる気もしますよね。とりあえず漫画好きに「よしながふみ」と言って悪い顔する人はいません。あ、なんか話が逸れました。さてそんな先生の描いた大奥ですが、ポイントは一つだけ、そう、男女逆転ものであるということ。女同士のドロドロの骨肉の争いで人気を博したと言っても過言ではない「大奥」で、敢えての男女逆転。この姿勢だけでもスゴいじゃないですか。しかもそれがもの凄く濃密で面白いってんだから、参ります。一応5巻まで続いていますが、将軍ごとで話が分かれています。吉宗編から始まり、家光編、家綱編、そして綱吉編へ。各時代に生きた将軍、正室・側室たち、そして側近たちの想いが、どれも丁寧に、深く深く描かれます。

まさに「ここでしか生きていけない」者たちを描いた、ここでしか読めない物語。
個人的に印象深いのが、家光編。家光編では、将軍職が女子のものに変わるまでの様子が描かれているのですが、大奥に生きる男だけが描かれるわけではないのだな、と感心したというか。なんていうか男女逆転にすることでよしなが先生は、女性が感じる鬱屈感だとか不安・怒りなどを男という像を通してより繊細に、同時に荒々しく描き出そうとしているのかな、と思っていたのですが、なんてことはない、女性将軍からも、男的に生かざるを得ない
女の生き様・心情というものをこれでもかと描き出している。そこからはもうどっぷりはまり込んでしまいました。歴史物とかそういうものではなく、完全なSF。それも人間関係によって、その世界を深く広く見せていくという、特殊なタイプの作品だと言えるんじゃないでしょうか(SF漫画として見た時に)。
よしなが先生というと、「西洋骨董洋菓子店」や「フラワーオブライフ」、「きのう何食べた?」などから受ける、ややコメディ的なノリの強い作品を描く(もちろん前2者はやや重めのテーマが設定されたりしてましたけど)というイメージが強いのですが、この作品に関してはそういう要素は薄め。とにかく真っ正面から「人間ドラマ」を見せてくれます。もう何描いても、良い作品作っちゃうでしょ。これがよしなが先生の代表作かはわかりませんが、とりあえずよしながふみの神髄は存分に味わうことの出来る一作になっていると思います。なんか魅力をこれっぽっちも伝えきれていないような気もしますが、とにかくオススメでございます、ハイ。
【男性へのガイド】
→これは読める。というか、漫画好きなら読んでおくべき。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→話題的にも、内容的にも、オススメしない要素が見つからない。
作品DATA
■著者:よしながふみ
■出版社:白泉社
■レーベル:JETS COMICS
■掲載誌:メロディ(2004年8月号~連載中)
■既刊5巻
■価格:円+税
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