遠山えま「わたしに××しなさい!」(1)


恋愛ごっこの
お時間だ


■「絶対零度の雪女」とクラスで恐れられている雪菜。鋭い目つきと末端冷え性のおかげで、幼い頃から従弟の晶以外雪菜に近づこうとしない。そんな彼女の裏の顔…それは、超人気ケータイ小説家のユピナ。女子中高生を中心に人気沸騰中なのだが、読者が期待する“ラブ”が書けないことが、最近の悩みになっている。そんなある日、学校一の人気者・時雨の黒い秘密を握った雪菜は…!?

　「ココにいるよ！」(→レビュー)で完全になかよしの主軸になった、遠山えま先生の新作です。前回は、とにかく誰の視界にも入れないような内気影薄少女がヒロインでしたが、今度のヒロインは、周囲とコミュニケーションが取れていないことは同じでありながらも、その冷たい言動と視線で、常に周囲から視線を集め恐れられているという少女が主人公。そんな「絶対零度の雪女」こと雪菜は、実は今をときめく人気ケータイ小説家・ユピナという裏の顔を持ちあわせています。日頃の人間観察を生かし、周囲の人物達をモデルに想像を膨らませ、物語を書く日々。しかし最近、悩みが…それは、読者の期待に応えられるような“ラブ要素”をかくことができないこと。恋愛はおろか友達付き合いすらほとんどしたことがない彼女にとって、読者をときめかせるようなラブ展開を書くことは至難のワザ。「なんとかしなければ…」そう考えている時、彼女は偶然同じクラスの人気者・時雨の黒い裏の顔を知ることになります。そのことをネタに、雪菜は時雨を脅迫。「わたしのこと好きになりなさい」その言葉と共に、お互いに好きでもないニセモノの恋愛体験がはじまります。



基本ぶっきらぼうな上から口調。頭の回転が早いので舌戦には強いが、コミュニケーション能力が高いわけではない。


　とりあえずこれ、女性向けというよりか、男性に向いている話のような気がするんですけど…。遠山えま先生はなかよし以外でも、男性向けの雑誌で萌え系統のお話を描いていたりするので、そういった下地は十分にあるのですが、ここまで出してくるとは。素直じゃないメガネッ子が命令口調で「わたしを好きになりなさい」だの、「わたしを抱きしめなさい」だの、「わたしにキスしなさい」だの…しかも渋々してあげると、やたら恥ずかしがったり…「これなんてエロゲ？」って状態です、はい。まぁエロゲしたことないんでよくわからないんですが、とりあえず萌え喚起型の恋愛シミュレーションゲームのそれではあるな、という印象。
　
　しかしそれだけでは少女漫画として成り立たないわけで、そこはしっかりとイケメンくんを用意してくるわけです。お相手役となるのが、学校一の人気者・時雨。ルックス抜群、成績優秀、家柄バッチリ、そして人当たりも最高…しかし実は、そのスペックの高さを自覚した上で「好青年」を演じ、学校の女子たちを夢中にさせることに快感を覚え、そのことを手帳に書き綴るというイタイ一面を持っていたりします。そのことを雪菜に知られ、恋愛ごっこに付き合わされることになるのですが、基本的にプライドが高いため、そう簡単に引き下がりません。この二人のぶつかり合いが、なかなか面白い。まだイケメンというだけで、ダークな面ばかりが強調されていますが、これから魅力も引き出されていくのでしょう。「性格悪い」って設定＋ヒロインの強気の態度で、こうも簡単に高スペックキャラを相手役に持ってくることができるとは…上手。それに、なかよし読者にはこのくらいの男性キャラ像でちょうど良い。さらには雪菜の幼なじみの従弟・晶も恋愛戦線に加わり、さらに盛り上がりを見せそうな気配。



なんかエロいというか…。少女漫画的じゃないというか…。


　シチュエーション、キャラ共に、読者の萌えに訴えかけるような作り。しかもヒロインは色モノで、俯瞰的に見ても、男性視点から見てもおいしい存在。結果として、オタク（俗にいう意味での）心があるならば女性にも男性も楽しめる、Win-Winの構造になっている…のかな？なかよしだからこそ、それも遠山えまだからこそ出来た作品といっても過言ではないでしょう。全てが「作られた感」のある設定・キャラではあるものの、それを存分に生かしているから、面白い。まぁ萌えポイントがズレてしまったら、それでお終いなんですけどね。とりあえずこれからどう動くのか、気になります。


【男性へのガイド】
→まったく問題無く読めるんじゃないでしょうか？そこから先は、性別というよりも趣向の違いに起因する部分が多くなってきそう。
【私的お薦め度：☆☆☆☆　】
→色々な意味で注目したい作品。実際面白かったですし、ヒロイン・相手役共にツボでした。さすがなかよし、さすが遠山えま。ただ万人が受け入れられるモノかというと、そうでもないわけで。


作品DATA
■著者：遠山えま
■出版社：講談社
■レーベル：KCなかよし
■掲載誌：なかよし（2009年６月号～連載中）
■既刊１巻
■価格：419円＋税

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