このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [続刊レビュー] 2009.10.11
作品紹介はこちら→*新作レビュー* 西炯子「娚の一生」



07228955.jpg西炯子「娚の一生」(2)


君の心のまん中に抜けへん固いトゲがある
それが何かは問題やない
ぼくはそれが抜けるのを待つ
けど
ぼくには君ほどたくさん時間はない



■なんだかんだで同居をすることになった海江田とつぐみ。親戚の前で堂々と「告白」をされて、つぐみの気持ちは揺れに揺れる。海江田は強くつぐみとの結婚を望むが、つぐみは彼の気持ちを素直に受け取れない。それでも少しずつ心を開いて…と思った所に、海江田を慕う秘書・西園寺さんが来襲。さらには見知らぬ子供まで…!?

 今年の上半期新作オススメリストで2位に推した作品です。2巻になっても素晴らしい。もうね、最初に言っとくよ、コレ読まない人は損してるよ!なんて言ってみたものの、結構読み手を選びそうでもあるんだよなぁ…。強くお薦めするべきか迷うんだけど、でも面白いんだもの。
 
 さて、1巻では海江田とつぐみ、1対1の状況から関係を構築していくというのがメインでした。こうすることで、各々の心情を深く静かに浮かび上がらせることができたわけですが、2巻では打って変わって、複数人との関わり合いの中から、2人の関係を描き出していきます。その先陣を切るのが、海江田に想いを寄せる美人秘書・西園寺。生粋のお嬢様で苦労知らずである彼女は、海江田に振り向いてもらおうと、つぐみにライバル心を燃やしながら積極果敢にアプローチを仕掛けます。守るものなど何もない、若さに溢れる恋。すでに50を過ぎた海江田に、女としては行き遅れになりつつあるつぐみとは、いわば対照的なキャラです。そんな彼女の“邪魔”に奮起したのは、つぐみではなく海江田。基本的には、海江田につぐみがひっぱられる(振り回される)という流れ。この関係性はこれから先も変化することはなさそうですね。でもちょっとやんちゃな初老の男性って、ちょっと萌えませんか?同時に自分を丸ごと包み込んでくれる包容力もあるわけで、素晴らしいですよね。


男の一生
結果として2巻のメインになった、少年との日々。ここだけ抜き出すとほのぼの日常ものみたいですが、そこまで緩く温かいだけの関係ではない。各々思う所があり、その関係はほのかに緊張感を漂わせる。


 さて、2巻の目玉とも言えるのは、西園寺さんではなく、なぜかつぐみの家に置き去りにされた5歳の少年の登場。海江田ともつぐみとも縁があるわけではなく、単に置き去りにされた子供という超展開。あまりに突然の展開に最初は驚いたものの(つぐみも、私も)、どうするわけにもいかず、親が見つかるまで預かることに。海江田と、つぐみと、少年。つぐみも早くに結婚していれば、このぐらいの子供がいてもおかしくなかったわけで、少年と過ごす日々を通して、家族というもの、結婚というものについて考えふけるようになります。ここで突然の疑似家族展開。しかもしっかりとその関係を描くものだから、ありえない展開でも自然と納得してしまうという。こういう話の運び方もあるのね、と感心。この状況が許されてしまうのは、舞台が田舎だからなんでしょうか。とにかく不思議な面白さがありました。
 
 ラスト近くになると、つぐみも海江田に心を許しはじめます。完全に…ってわけじゃないですが。話の性質を考えるに、つぐみは「気持ちの整理がつき次第」、そして海江田は「状況の整理がつき次第」、終わりを迎えられるという感じですかね。だとしたら、長くてもあと2~3巻、上手く進めば次で終わりなんてことも全然ありえそう。この「ちょうどいい」感じが素晴らしい。3巻はどんな展開?とにかく楽しみでしょうがないです。


男の一生2
お互いを縛るものはそれぞれ違う。


 帯には「恋に悩める女性たちに捧げます!!」なんて書いてありますが、つぐみを通して見えるものは、決して恋だけに限定されたものじゃなく、女としての一つの生き方みたいな部分も多分に含まれているのではないのかな、と思います(私男だけど)。その受け皿として、海江田さんがいる。その表面は、決して滑らかでやさしいものではないけれど、それがひどく心地よい。これ男性も、楽しめると思うんだけど、どうだろう。


■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「flowers」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。