
心がときめいた時も
折れそうな時も
ともに過ごした若葉のころ
■東の名門、私立の雄・森文大学。その広大な敷地の外れ、鬱蒼とした森を抜けて10分の場所にある古びた洋館、それが森文大学男子寮である。各学年15名計60名が集うその寮では、上下関係と規則の遵守のもと、皆々日々勉学に励んでいる。部屋は2人部屋で、上下関係は非常に厳格。しかし、節制に節制をつくした凝り固まった生活を送っているわけではない。時に一緒に酒を飲み、語り合い、恋に悩む。名門大学の寮生たちが織り成す、トキメキ必至のパワフル青春オムニバス!
表紙を一目見て「あ、コレ描いたのBLの先生だな」と思ったのですが、やはり。山中ヒコ先生は、主にBLで活躍なさっておられる先生だそうです。この「森文大学男子寮物語」は、女性向け一般誌「フィール・ヤング」にて不定期掲載された、名門大学の寮生たちを描いたオムニバスシリーズになります。男子寮が舞台ですが、BL的な要素は一切ナシ。10歳差の恋愛に翻弄される田舎出身の新入生から、3股恋愛の渦中にいながらどこか冷めた目で見ているイケメン、歳下の彼女に手が出せない純朴青年に、入寮イベントに苦しむ勤勉な新入生、単位不足で退寮の危機に瀕する3年生と、その物語・主人公は様々。序盤は完全に恋愛に特化した内容になっているものの、後半は打って変わって友情ものと、その幅は「男子寮」という舞台設定を考えると広いです。
男子ばかりが集うオンボロ寮で、1話目の主人公が花本くん。なんとなく「ハチクロ」を思い出しましたが、あのラインと似てなくもないのかな。さすがに森田みたいな男はいないものの、花本とか真山みたいな雰囲気を持つ男たちはおりますよ。なんて私も実は学生寮出身。同じ学校ではなく、県出身者で選り分けられる寮で、しかも1人部屋だったため、ここまでの一体感というか、良くも悪くもお互いの距離が近いと言う感覚は味わわなかったものの、この感覚はものすごく分かります(笑)基本的に先輩の言うことは絶対ですし、飲みに誘われたら行かなくてはならない。女の子を紹介してもらうこともあれば、恋バナに花を咲かせることもある。なんだかんだで一番一緒にいる時間が長いので、最終的に頼るのはそこになっちゃうんですよね。でも不思議と恋愛でごたごたすることはないという。

何この青春。情けない感じがたまりません。共同生活はしているものの、大学生ですから“個”としては独立しているんですよね。その距離感をどう描くかなんですが、序盤は良い感じでそれが描かれてました。後半はこういう寮だからこその展開なんだろうなぁ。これはこれで楽しそう。
男子寮物語ですから、主人公は全員男。それだけでもなかなかスゴいと思うのですが、童貞ネタが2つもあり、さらに仰天。1つ目は、童貞喪失を「奇跡だ…」なんて言っちゃう新入生。もう1人の話には、「猿ロック」でいう童貞マップ的なものが出てきたり…。そういえば、入寮して最初に聞かれた質問が「童貞?」だったっけなぁ…(遠い目)。この辺の描き方も、上手い具合にネタに落とし込みつつも、しっかりと男子の気持ちを表しているので、全然大丈夫、いやむしろイイ。BLだとこの辺がものすごくえげつなくなるんですけどね。
また名門大学がモデルであるせいなのか知りませんが、基本的には皆いい子です。そんでもって清々しいほどに純情。こういう青春汁絞りまくりの作品、私は嫌いじゃないです。特に2話目、3股かけてる男の子のお話なんかは、ありえないぐらい青春してて良かったなぁ。同じ男子寮を扱った作品としては、和泉かねよしの「メンズ校」(→レビュー)がありますが、あちらはあくまで高校生の青春。この大学生ならではの青春ってのは、やっぱり高校のそれとは別ものなんですよね。モラトリアム期間の終焉が刻一刻と迫る中の、有り余るような自由な時間。その中に生きる学生たちの生き様を見ると、自分たちがその頃に置き忘れてしまったものを思い出させてくれるようで、どうにも恥ずかしく、同時に切ない感情が湧き上がります。
ちなみにモデルとなった大学寮は、慶応大学の日吉寄宿舎だとか。この田舎っぽい新入生と汚い感じから、早稲田かな、なんて思ったのですが、慶應なんですね。そりゃ合コンも調子良いわな。
【男性へのガイド】
→これ男性でも好きな人結構いるんじゃないですかね。ちょっと酸っぱい青春モノが好きな方は。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→面白かったです。寮出身ってことで多少のフィルターがかかったのかもしれませんけど、それでも水準以上の出来にあると思います。オススメ。
作品DATA
■著者:山中ヒコ
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィール・ヤング(2008年9月号,2009年1,3,7,9月号)
■全1巻
■価格:924円+税
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