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Tag [新作レビュー] 2009.10.12
07230393.jpg麻里ねこ/咲灯一「ロゼッタからの招待状」


…だって一光年むこうから地球を見たら
一年前の地球が見えるんだよ
10光年向こうなら10年前
100光年向こうなら100年前…
…宇宙って
でっかいタイムマシンなんだよね



■星のよく見えるこの村に変な発電所をつくるとかで、村人は一年後までには出ていかなきゃならないらしい。気がつけば村の周辺から、変な棒みたいなのが組み立てられてきていて、オレたちが勝手に「竹鉄」と呼ぶソレは、そのうち本当にこの村を飲み込んでしまうらしい。11年間生まれ育った村が、あんなものに飲み込まれる…そんなのは、絶対認めない!そう意気込み、夏休みを迎える皐太郎たちの前に、笑顔の似合う若い女の人・大崎カンナはやってきた。この出会いが、忘れられない夏の始まりだった   

 私たちの世界に似ているけれど、どこかが違う。そんなパラレルワールドが舞台で、しかも季節は夏が似合う。主人公は小学生たち。なんとなくNHKでのアニメ放映がハマりそうな、そんな雰囲気ってわかりますかね?それは例えば「ふたつのスピカ」だったり、「電脳コイル」だったりするわけですが、この「ロゼッタからの招待状」も、なんとなくそんな雰囲気を纏った作品に仕上がっている印象。
 
 物語の舞台になるのは、過疎化の進む農村。ヘンテコな発電所の建設のために、やがて消え行く運命にあります。その象徴とも言えるのが、日に日に増えて伸びていく鉄の棒、通称「竹鉄」。「竹鉄」を前に、子供たちはやり場のない苛立ちを募らせます。そんな中、2人の男女がこの村に引っ越してくることに。1人は非常に表情が怖い若い男性・柄冬馬、そしてもう1人が、この物語のメインヒロイン・大崎完奈。何が何でも発電所の建設を食い止めたい皐太郎は、自分たちの想い(村をなくさないで欲しい)を、聞く耳を持ってくれない他の大人達に伝えてもらおうと、カンナさんを味方につけようとします。しかし仲良くなったのも束の間、実は彼女は発電所を計画している会社の社員だということが判明。皐太郎は裏切られた気持ちになり、さらにイライラを募らせるようになります。何かと不思議な行動を繰り返すカンナさんと、この村を守ろうと必死な皐太郎。彼らのひと夏の思い出を、瑞々しく描いた物語になっています。


ロゼッタからの招待状
なんとも雰囲気が良い。舞台、ストーリー、絵柄がそれぞれ非常によくマッチしている。


 ファンタジーというか、SFと言った方が良いのかな。村の消滅を食い止めようと、必死で駆け回る小学生。そんな彼が対峙するのは、その発電所計画に携わる人間。しかし彼女もまた、この計画(実は発電所ではなく、別の目的がある)に特別な想いを馳せており、懸命に駆け回る。その二人の想いが交錯した時に、ちょっとした奇跡が訪れる…と言った感じ。かなり漠然としていますが、1巻完結である上に、様々な要素が詰め込まれているために、一言では表すことができないんですよ。考察しようと思えばいくらでもできそうですが、結果としてそれはネタバレになってしまうので、なかなか難しいです。ここまでの説明だと、台詞抜粋だけ浮いてしまう気がするのですが、もってく方向は宇宙、そして星。カンナさんは発電所計画の視察ではなく、星を探しにこの村に来ているのです(余計ややこしく…)
 
 一言で言うなら、この作品は好き。ただちょっと詰め込みすぎて、整理しきれず不格好になってしまったかな、という印象も受けます。例えばこのお話のシンボルとも言うべき「竹鉄」。最初から最後まで、この存在が一つの大きなポイントになるとも思えた(表紙を見ればそう思うし、登場の仕方もさ)のですが、最後をもってったのはUFO(みたいなヤツ)。その役割も比較的早い段階で明らかになりますし、最後ああなったからってそこに行く過程でそっちを使っちゃうのか、と。要は謎を残すバランス配分の問題。またカンナさんと同時に登場した冬馬。彼も登場時、いかにも「なにかありそう」という雰囲気を出したのだから、もうちょっと重要な役割を与えてやってもよかったんじゃないかな、と。あの程度なら、何もカンナさんと並び立つような形で登場させなくたって…。こういう作品は、特殊な設定に関しては最後まで謎を残しつつも、それがきっかけを与える形で各キャラの悩みや傷が癒され、めでたしめでたし…となります。そういう意味ではしっかり完結しているのですが、その過程が個人的にちょっと惜しいと思ったと、そんな感じです。多分これ、1巻で完結ではなく、2巻ぐらいを目安に進めれば相当な良作になったんじゃないかなぁ。実に惜しいというか。


【男性へのガイド】
→元々アヴァルス作品ではなく、移籍してきたんですよね。どちらかというと、少年誌的でリリカルな雰囲気が強い作品。ゆえに男性でも問題無く読めるかと。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→もの凄く好きな流れ。共に新人さんということを考えると、このポテンシャルは目を見張るものがあります。だからこそ、惜しい。これをオススメにしちゃうと何かが崩れる気もするので、ここで。ただこの2人の名前は、チェックしておいて絶対損はありません。次の作品に、大いに期待。


作品DATA
■著者:麻里ねこ/咲灯一
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:BLADE COMIC Avarus
■掲載誌:コミックブレイドブラウニー(Vol.1)、アヴァルス(2009年7月号~9月号)
■全1巻
■価格:571円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「ComicBlade avarus」コメント (2)トラックバック(0)TOP▲
コメント

2巻くらいで完結させて欲しいというのは同意も同意……3話までがすごく丁寧で感情移入できる流れだっただけに、最終話がやっぱり無理のある強引な構成だった気も……ある意味ではあの抽象的な締めくくりこそが作者の描きたいことであって、今作の完成系なのかも知れませんが。いや、あとがきで言ってる通りに、冬馬さんにはもう少しばかり活躍して頂きたかった(笑)

さておき、先日は当方のサイトをリンク集に加えて頂きありがとうございました。少女漫画と4コマには何かと疎い自分にとって、いづきさんの贈り出す生産的なレビュー記事の数々は本当に参考になりますので、今後とも度々お邪魔することになるかと思います。自分も現状は見苦しい体裁に甘んじたままですが……ある程度に段落ついたら方向性を確立させたいと思いますので、どうかそれまで長い目で見守ってやってくだしー。何はともあれ末永いお付き合いの程をどうぞ宜しく。
From: AVE * 2009/10/15 10:18 * URL * [Edit] *  top↑
コメントありがとうございます。

無理矢理締めたのかはたまた狙ってああなったのか、その真相はわかりませんが、個人的にはやっぱり腑に落ちないところがあるなぁ、と(笑)この辺は、ストーリー担当さんと絵担当さんの認識の差みたいな部分も、もしかしたらあるのかもしれませんね。とりあえず、掲載誌休刊で未完のまま終了…とならなかったのが何よりの救いです。

こちらこそリンクありがとうございます。対応が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。質より量の粗末なレビューではありますが、少しでもお役に立てているのでしたら幸いです。同じ2009年デビュー組として、切磋琢磨していきましょう!これからも宜しくお願いします。

インフルエンザに罹っていらっしゃるようで、お大事になさってくださいね。

From: いづき * 2009/10/15 21:09 * URL * [Edit] *  top↑

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