
夜 木の芽風の中を
小野くんと
このまま止まらずにずっと
走っていけたらいいのに
■青春真っ盛りの恋愛を描いた読切り4編を収録。それでは表題作のご紹介を。
生まれて初めて彼氏が出来た、中学生のまゆ。相手は、野球部のレギュラーで日々部活に明け暮れる小野くん。練習で忙しいし、あんまり恋人らしいことはできないけれど…そう言われ、それを承知の上で付き合った。忙しい彼に精一杯エールを送る中、彼がレギュラーから外されそうだということを耳にしてしまう。まさか自分のせい…?そう思ったまゆは…
木村文子先生の読切り集です。オリジナル作品としては2冊目になりますね。前作「青春パンダ!」(→レビュー)は続き物で、良くも悪くも少女漫画の基礎を行くような内容でした。今回も、良くも悪くもスタンダードな物語が多め。テーマになっているのかはわかりませんが、「青春」の匂いをより強く感じられるような作品が多かったように思います。
表題作は、中学生がヒロイン。吹奏楽部でクラリネットを担当するまゆが、初めてできた野球部の彼氏・小野くんとの関係に、一喜一憂するという内容。共通の話題が見つからなくて話に詰まり落ち込み、頑張っている彼の姿を見て勇気づけられ、クラリネットのリードにメッセージを書いてもらってもの凄く喜び、彼の不調を聞いて自分を責める…と、初めての恋に右往左往するヒロインの姿が、とっても初々しい。また同時収録作としては、同じ弓道部に所属する幼なじみとの恋を描いた「カーテンごしの彼」や、やたらとヤリ急ぐ彼に思い悩む女子を描いた「ラン・アウェイ」、そしてひょんなことから一緒に雀の子供の面倒を見ることになった男女のやりとりを描いた「夏を翔る」など、とにかく青春とか初々しさとか純粋さに溢れた内容になっておりますよ。

甘酸っぱいなぁ…。この時にしか感じられない想い・感情を、純度高めで描き出します。
今回も前作同様、安心してみていられるけれどインパクトには欠けるという印象。とにかく個性がないというか。それゆえに安心感があるのだと思うのですけど、それが無個性の裏返しだとしたら、あまり褒められたものでもないのかな。ただ男の子視点で展開された「夏を翔る」は、かなりベタではあったものの、他とは違って比較的印象に残る物語でした。最初は単に男の子が主人公だから、感情移入がしやすいのかな、と思っていたのでしたが、多分違う。むしろ要因は、女の子にある気がします。木村先生の描くヒロインは、かなり受け身で大人しい気質の子が多いんですよね。リードが基本、男がしてくれる。設定や状況は違っていても、このパターンは一緒。まぁ少女漫画ですから、それは当たり前といえば当たり前なのですが、あまりにおあつらえ向きだと、面白みに欠けるという。例えば2話目の「カーテンごしの彼」なんて、ヒロインは何もしてないですからね。そんな中、「夏を翔る」は男の子視点で、相手役の女の子がかなりリードしてくれるキャラでした。それでも終始女の子にリードさせるわけにはいかないので、最後は男の子が頑張るのですが、このバランス感が素敵だったなぁ、と。一つきっかけがあれば、一気に変わってくるだけのポテンシャルは持ち合わせている…と思う。目一杯の青春と、適度なパワーバランス、そこにプラスαで何か加われば、レギュラー定着どころか売れ筋にだってなるんじゃないか、そんな楽しみを見せてくれたお話でした。
【男性へのガイド】
→男性には厳しい内容。面白くないとか合わないという意味ではなく、女性がとにかく受け身なので、頑張る男性の姿に共感できるのかどうか…と。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→正直2つぐらいで妥当だったかもしれないのですが、安心感+次へのお楽しみという二つで☆3つに。もうこうなったらとことん追いかけてやる。
作品DATA
■著者:木村文子
■出版社:講談社
■レーベル:KC 別フレ
■掲載誌:別冊フレンド
■全1巻
■価格:419円+税
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