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もとなおこ「コルセットに翼」
もとなおこ「コルセットに翼」(5)
少なくとも今の私は…
チェスの駒にすぎないのかもしれない
けれど 駒も務められない人間は……
ゲーム盤から去るしかないことも事実だよね■5巻発売しました。
学校の卒業生・ジェシカの婚約に伴い催された婚約パーティーに、ミス・デスデモーナも招待される。彼女が学校を離れる2日間の間、クリスたちは雑誌記者・アトリーを招き、デスデモーナを破滅に導く秘密の記録を手渡す。着々と、デスデモーナ破滅へのカウントダウンが刻まれる。そんな中、ラファエルが病を抱えたまま、旅立ちを決意。彼の旅立った屋敷で、彼への想いを馳せていると、そこにずっと探していたミスター・バードが現れる。奇しくもジェシカの婚約者であると知ったクリスは、彼との再会と重なる偶然に喜びを爆発させるが…!?
ついにデスデモーナ政権が崩壊か。一気に切り崩すなんて事はしません。外堀をこれでもかと埋めた後に、じわじわと攻め込む。それが最も確実で、最も効果的なやりかただから。コレを計画したのは、すべてジェシカ。これだけ見ると、ジェシカがもの凄い悪者のように見えてくるから不思議です。この容赦のなさと徹底ぶりも、またジェシカの魅力なのでしょう。しかしジェシカはデスデモーナへの復讐を遂げて、それからどうするつもりなのでしょうか。寄宿学校時代からデスデモーナへの復讐を常に頭に置いて行動し、ミスター・バードとの婚約すら、復讐のための道具にしてしまう、その徹底っぷり。なんだかもっと大きな野望のようなものが見え隠れする気も。実際にそうなのかはわからないものの、あまりに事が順調に運びすぎる状況に、クリスも若干の不安を感じます。確実にフラグだと思うのだけど、どう発動するのか、6巻以降が楽しみ。

女の強さと、恐ろしさを感じた一コマ。ジェシカの表情もさることながら、クリスの表情もまた…。
さて、この作品を読む度にいつも思うのが、「一体これは何マンガなのだろう?」ということ。恋愛マンガではないですし、時代物というのもどうだろう…学園ものというのも少し違う気がするし…。そんななんとも不思議な同作の、軸となる要素を顧みることで、この作品のメインテーマが少しは見えてくるのではないかな、なんて思った今日この頃。
まず1番の要素は、ヒロインであるクリスの成長物語としての側面。コルセットに翼というタイトルは、コルセットという縛り付けるものにも負けず、翼を持って大きく羽ばたいて欲しい…みたいなメッセージが込められているのではないかな、と。恐らくメインテーマはこれ。それを効果的に描き出すために、デスデモーナ寄宿学校でのつらい生活という舞台を用意したのでしょう。生徒同士の百合百合しい関係や、友情物語などは、あくまでサイドディッシュ的な役割にすぎないのではないかな、と。
もうひとつ大きな柱になっているのが、彼女の出自に関する部分。ヒロイン・クリスとミスター・バード、そしてラファエルの関係。こちらは未だに謎の部分が多く、デスデモーナの件が一段落したらこちらに物語はシフトしてくるのではないでしょうか。
この鍵は秘密の王国の門の鍵
そこには1人の王と3人の天使が住んでいて
2人は鍵を1人は箱を守っているの
王様の庭にはいつも花が咲き乱れて…
5巻ラストにてラファエルが箱を手に入れ、天使は持つべきものをすべて持ったことになります。果たしてここからどう展開するのか。ヒロインの成長を追うと同時に、こうした謎を用意することで、物語に深みをプラス。まぁどちらにせよ、「彼女のアイデンティティを形成する」という意味では同じようなテーマなのかもしれませんが、そのアプローチの仕方は全く別物なので、興味深いです。これだけ色々な要素を詰め込んでいるにも拘らず、それぞれ喧嘩せずに似たような風合いでしっかり調和しているあたりは、さすがベテランのなせる業という感じでしょうか。1900年前後のイギリス+上流階級という設定も、この独特の物語展開を許容させる下地になっているのかも。とにかく、雰囲気にのまれたままに物語を楽しみましょうよ、と。そういえば5巻にセドリック出てこなかった気が…。恋愛に関していえば、リアムとセドリックの2人がいるわけですが、こちらも身分差という障害を用意していて、展開させようと思ったらいくらでもできるという周到さ。とはいえまだまだ先な気もします。恋とか、そういう次元にいませんからね、クリスはまだ。
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