
弟妹よ!!
東京には人間まで落っこちてるベ
■時は昭和初期。田舎で貧しい暮らしをしていたところを、東京に住むおばに拾われ、今は女中として東京で暮らしているイワ。たいした器量も才能もない、ならば精一杯善行に励め。そうじい様に言われたイワは、その言葉を忠実に守り元気一杯に女中仕事に励んでいる。そんなある日、道端で傷ついたコウモリを見つけ、かわいそうだからと手当をしてあることに。やがてコウモリは元気になって去っていくものの、入れ替わるように今度は道端に倒れ伏す青年を見つける。思わず保護して家に連れ帰ったイワだったが…!?
勝田文先生の新作です。『ウランバナ』との同時刊行。『ウランバナ』は買うつもりはなかったのですが、『ちくたくぼんぼん』がなかなか雰囲気良さげだったので、買うことに決めました。こちらは後日レビューします~。さてこちらのお話、舞台となるのは昭和初期の東京。そしてヒロインは、元女優のおばとその息子(帝大生)の暮らす家で女中をする、田舎出身のイワ。器量も才能もない、だから精一杯善行に励む。そう教えられ、その通りに過ごしてきた彼女が、東京の道端で傷ついたコウモリを拾う。三五と名付けたそのコウモリは、傷が癒えるとやがて飛び立っていく。せっかく手に入れたペットに逃げられてしまうイワだったが、今度はなんと人間を道端で拾う。病弱そうで、吸血鬼のような風貌の彼の名前は、奇しくもコウモリと同じ三五。もしや本当に吸血鬼!?と思ったのも束の間、彼は時計屋の倅で、仕えている従弟の友人だということが判明する。何故か彼から形見の時計を手渡され、以来彼のことが気になるイワだったが、彼はどうにも病弱ゆえの死にたがり屋さんで…!?という感じのお話。

この雰囲気の良さは、読んでこそ伝わる気も。賑やかさだけに終始せず、ロマンチックなシーンもしっかり描き出す。
結局は青春群像的な恋物語になるのでしょうか。東京での生活を楽しんでる田舎者のヒロインと、病弱さからこの世に希望を見出せない都会育ちの青年。なんの接点もない二人が出会い、お互いの魅力を認めあい。希望を見出していく…と書くとなんだか壮大で感動的なお話のようになってしまいますが、実際の雰囲気は明朗快活なヒロインの心情表現ベースで展開されるので、とても賑やかで明るく、コミカル。脇を固める人物たちも個性的で、味がある。またこれはもう感覚としか言いようがないのですが、昭和初期の空気感(昭和モダンとでも言いましょうか)がすごく伝わってくる作品になってます。東京で見るものすべてが新しいヒロインと、当時の東京を体感したことがない私たちの視点が重なり、リアルな雰囲気を感じさせているのかもしれません。一筋縄でいかない時代・人物たちの上を、無垢で元気一杯なヒロインが軽やかに駆け抜ける、そんなイメージ。滑稽で、爽快…不思議な味わいを持った、素敵なお話だと思います。
と書いたものの、1巻では3話しか収録されておらず、あとは2巻を待つという状態。ただその切り方が、楽しい展開を予感させるようないい終わり方なんだ。1巻ではまだ判断できる段階にないのでしょうが、いや、これは面白くなるはずですよ。あ、あとタイトルや表紙にある通り、時計がひとつのキーアイテムとして登場。これからどのような物語、心情描写を演出するのか楽しみです。それはまた続刊レビューにでも。
同時収録の長編読切りも良かったです。ちょっとズレた日常とでも言いましょうか、独特の空気感がいい味出してました。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー*勝田文「プリーズ、ジーブス」
【男性へのガイド】
→男性も好きな人は好きでしょう。マイナス要素はコレといってないと思われ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→昭和モダンを、田舎者の女中視点でコミカルに描いた良作。強気の5つで。「まだあわてるような時間じゃない」と仙堂から突っ込まれそうですが、いいんです。この高鳴る予感に、ウソはつけないさ。
作品DATA
■著者:勝田文
■出版社:集英社
■レーベル:クイーンズコミックス
■掲載誌:コーラス(2009年4月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税
■購入する→Amazon