
夜が明けたら
鳴らせ
降らせ
その音を
■母の死をきっかけに、幸せな家庭は一気に崩れ去っていった。心の傷を負った天才ピアノ少女・ミヤビは、ショックから声を失ってしまう。そして声が戻らぬまま、ピアノ教室を営む直純の元に引き取られる。そこで出会った、一人の少年・ユエ。幼い頃からミヤビのピアノに焦がれ続けてきたユエは、ピアノを辞め心も閉ざしてしまったミヤビを前に、どうにかもう一度彼女を音のある世界に連れ戻そうと、躍起になるが…!?
高宮智先生の12冊目のコミックスになります。今回のヒロインは、元天才ピアノ少女・ミヤビ。ピアノの才能豊かだった母親の死をきっかけに、父親はミヤビに強く当たるようになります。それまで愛され続けて育った彼女にとって、その仕打ちはあまりに厳しく、やがて心因性の発声障害に陥ってしまいます。ピアノを辞め声を失い、そして父親との関係がトラウマとなったまま、彼女は母親の後輩である青年・直純の元に預けられることに。直純はピアノ教室の講師。ミヤビはそこで、教室の生徒である少年・ユエと出会います。幼い頃からミヤビのピアノに憧れていたユエは、あの手この手でミヤビを音楽の世界に連れ込もうとしますが、ミヤビはそれを頑に固辞し続ける…というお話。

世界でいちばんお姫様。声は出なくとも、しっかり態度で示す。ここから段々と心を溶かしていくところが、見所のひとつ。
今までの動きのある作品に比べると、かなり静の部分が強く、重苦しい雰囲気が強く出た作品となっています。とにかくヒロインが難しい性格。自分の殻に閉じこもり、断固として動こうとしないですし、動いてもまた心が読みづらいというか。彼女については作者の高宮先生も、「よくわからないままおわってしまった」と書かれていて、それが作品に直接出てしまったかなぁという印象。例えるなら、「キス&ネバークライ」(→レビュー)のみちるを、もっと可愛らしくした感じ。根底は病んでるのですが、それを少女漫画では描けないので、傷に留めたという感じでしょうか。おそらく、音楽でしか生きられない“天才”の再生の過程を描きたかったのだと思うのですが、そこまで行くのにかなり手間取ったというか、苦心されたのではと思います。そもそも完全な“天才”(=その世界のみでしか生きられない存在)を描いたのは、高宮先生は初めてのような気がします。今まではどちらかというとバカっぽいヒロインが多かったので、その部分もちょっと影響してるのかも。
傷を癒すには、自分で乗り越えるか、もしくは全承認によって回復するのどちらかだと思うのですが、少女漫画は基本的に後者。ここでもユエがその役目を担うことになります。しかしながらヒロインが上手いこと反応してくれないため、物語は若干の曲折を経ることに。ヒロインの天才性と、相手役の承認。言ってみればピアノと恋愛の2本軸での展開なのですが、その曲折があったために、どこかすっきりしない感じを抱えたまま読み進めることに。ただ最後はしっかりまとめてくれます。それまでのもやもやを一気に吹き飛ばすような、気持ちの良いラスト。「終わりよければすべてよし」ではないですが、読後感はどの作品よりも爽快だったように思います。だから高宮作品はやめられない。
所属しているChuchuは休刊で、おそらくちゃおに戻ることが濃厚だと思われますが、そちらでもなんとか頑張って欲しいものです。
【男性へのガイド】
→キャラで押すような強引さはありません。ストーリーものとして、少女漫画としての要素が強めに出た作品となっているので、今までの作品と比べると男性向きの感は薄いかも。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→ストーリーの破綻もありませんし、やるべきことはやりきったと思うのですが、どうにも消化不良の感が。先生自身も「迷走しながら描いた」と書いておられていますし、オススメまでは。
■作者他作品レビュー
高宮智「ソラオト」
高宮智「わたしのおくすり」
作品DATA
■著者:高宮智
■出版社:小学館
■レーベル:ちゅちゅコミックス
■掲載誌:ちゅちゅ(2009年3月号~9月号)
■全1巻
■価格:400円+税
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