
「自分自身の気持ちを大事にしたらどうですか?」
「わたしの気持ち…」
「もう…決まってるんでしょう?」
■結婚前提で遠恋していた彼氏を追って上京してきた亜紗は、定時で帰れるというゲームのデバッグ会社でバイトをしながら、同棲をすることに。しかし初日から早々に、オタクっぽいメガネの先輩からイヤミを言われ、さらには定時どころか徹夜で仕事…。翌朝、疲れて帰ってきた彼女を待っていたのは、怖いくらいに不機嫌な彼氏。労いの言葉をかけることもなく、「もう行くな」とだけ伝えられ、何だか腑に落ちない。楽しい毎日が、ずっと続くと思っていたのに、なんだか違っていて…
ティーンズラブ系統の作品などを発表しているKUJIRA先生の、フィールヤングでの連載作品になります。ヒロインは、地方都市から23歳にして、彼氏を追って上京してくる亜紗。彼氏も元々は地元にいたのですが就職先が都内だったため、1年間の遠恋を経てこの度同棲することに。しかし転がり込むだけでは良くないと、しっかりバイト先も見つけておきました。それがゲームのデバッグ会社。ゲームのデバッグとは、試作品をプレイして、ゲームのバグを探すお仕事。ゲームなどまったくやらない彼女ははじめ、その会社の雰囲気と、徹夜当たり前の業務、そしてなんだかキツいことを言う上司(メガネ)に戸惑います。しかし、徐々にやりがいを見出し、気がつけば先輩メガネさんとも折り合いがつくように。

物語のメインとなる3人。ヒロインと、彼氏、そして飯田さん。仕事と人間関係を通して、自分というものを見つめていく。
仕事でのやりがいを見出し、のめり込んでいくと共に、彼氏との間には深い溝が。彼女自身は、「なんのために上京したのか。私は何をやりたいのか。私の居場所はどこなのか。」ということをなんとなく自問するようになります。それを強く考える契機となるのが、デバッグ会社でのバイトと、メガネの先輩・飯田さんとの出会い。一見「仕事」と「恋」の2本立てのように思えますが、根本にあるものは先の「自分の居場所」みたいなところに落ちていくので、2本立てと捉えるのは早計なのか。ただ恋愛に関して言えば、ゲームのデバッグ(=バグを取り除く)というバイトをしながら、彼氏との間に発生したバグは取り除けないという構図で描かれており、これだけで見ても十分面白いです。
徹夜が当たり前の、慣れない職場で…というと、同じ雑誌に連載していたねむようこ先生の「午前3時の無法地帯」(→レビュー)を思い出します。どことなく雰囲気も似ているような。あそこまで明るくポップではないですけど。またゲーム会社ということでは、「大東京トイボックス」的な雰囲気を感じないこともない。多分両者を足して2で割ったような雰囲気。ただ結末としては、ゴールへ向かうというよりはスタートに立つというようなニュアンスなので、その分サラッとしてます。タイトルの「ワールドエンドゲーム」ってのも、終わりになっても、そこからもう一度始める、みたいな意味かと。そのためラストは若干腰砕けな印象を受けるかもしれないですが、1巻完結ということを考えるとこのぐらいが丁度良いのでしょう。
表紙をとるとキャラのドット絵が出てくるのですが、カワイイです。何気に裏表紙の定価の数字とかもドット表示で、凝ってるなぁと。
【男性へのガイド】
→テーマから最後までの流れをみると、やっぱり女性が読んでこそという感じを受けますが、デバッグ会社という設定は男性には多少なりとも訴求するものはあると思われ。表紙を見て「おっ!」って思ったらいっちゃっていいんじゃないでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→フィールっぽさを出しつつも、ゲームのデバッグ会社という特殊な設定を加えて個性を演出。両方とも好きな要素。スッキリ終わらせたところもいいですね。オススメで。
作品DATA
■著者:KUJIRA
■出版社:祥伝社
■レーベル:フィールコミックス
■掲載誌:フィールヤング(2009年2月号~8月号)
■全1巻
■価格:933円+税
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