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Tag [オススメ] [新作レビュー] [読み切り/短編] 2009.02.06
亡鬼桜奇譚斎藤けん「亡鬼桜奇譚」


そうだな
もし永遠なんてものがあるとしたら
それはきっと
永遠を信じた一瞬のことなんだろう



■斉藤けん先生の幻想短編集です。短編4つを収録。
 収録作を二つご紹介しましょう。
 「亡鬼桜奇譚」…美しい鬼の娘と、その娘に一目惚れした旅人のお話。カバーの絵は化粧をした姿。実際はもっと人間的でキレイです。物心ついた時から虐げられてきたために、嬉しい・楽しいという感情を知らずにいた鬼の娘・桜花ですが、新たな身請け人で、心優しい旅人・正親と触れ合ううちに、次第に知らなかった感情を芽生えさせていきます。そんなある日、桜の咲かなくなった町に辿りつくのですが、そこで思わぬ事態に巻き込まれることに…。
 
 「無限時計」…世界の寿命の時を刻む「無限時計」。そして、誰もがひとつ持ち、その人の命の時を刻む「銀時計」。無限時計がⅫ時を刻んだときには世界が、そして銀時計がⅫ時を刻んだときにはその人が、終わりの時を迎える世界。時計なんかに縛られるのは嫌だ。そんな想いを持つ活発な少女・ミューが、ある日残り時間が少ない少年・カイと出会い、心を通わせていく…。
 
 独特の世界観、独特の重み、独特の時間の流れ。読んでいると何とも不思議な感覚におそわれます。なんだか自分まで物語の中の世界に入ってしまったかのような、そんな感覚。上記2作品の他に、様々な時間軸が交錯する、魔術師と王のお話「サンドグラスの檻」と、花と想いがめぐり巡るハートフルストーリー「花のカノン」が収録されていますが、その全てが切なく、だけど優しいお話。ただ切なく悲しいだけでなく、ちゃんと「救い」が見えるところが良いんですよね。だからこそ、心に深く、強く響きます。ファンタジー色が強めですが、それさえ苦手でなければきっとハマるはず。オススメです。


【オトコ向け度:☆☆☆☆ 】
→この重さや深さを感じさせる物語は、男性にはむしろ読みやすいように思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→オススメです。短編集としてはかなり良い出来なんじゃないでしょうか?「物語」という言葉がしっくりくる作品たちです。


作品DATA
■著者:斎藤けん
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:LaLa(平成20年1月号),LaLa DX(平成20年11月号),LaLaスペシャル(平成17年6月1日号,平成20年6月1日号)
■全1巻
■定価:400円+税

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