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Tag [新作レビュー] 2009.11.14
07230782.jpg槙ようこ「勝利の悪魔」(1)


変わった学校
変わった先生
変わった人達
変わった子
やっぱり 私は
不思議な世界の穴ぼこに
猛スピードで転がり込んだのかもしれない



■田中森麻実、16歳。ついこの間まで名門私立に通っていたものの、父親の会社の倒産によって貧乏生活を余儀なくされるように。当然、転校を余儀なくされる。そしてやってきた新しい学校は、変わった人達ばかりのまるで動物園のような学校。そしてそんな変わり者達の中、ひときわ強い存在感を放つ生徒が。田中光というその生徒は、一見かわいい女の子、しかしその正体は、女の子の格好をした男の子で…!?田中森と光の、一風変わった学園ライフのはじまりはじまり~

 槙ようこ先生の新作でございます。「山本善次朗と申します」(→レビュー)との平行連載になりますので、どちらも刊行ペースはゆっくりになりそうですね。さて、こちらのお話ですが、ヒロインは元お嬢様で今は貧乏な女子高生・田中森朝実。そんな彼女が転校した先は、変わり者ばかりが揃う、自由奔放な校風の学校。そしてそんな中、ひときわ強い存在感とカリスマ性を放つのが、田中森の世話役に任命された木下光。歯に衣着せぬ言動に、全てを受け入れるだけの器の大きさ、そしてなによりその美貌。田中森自身も、あっという間にそのカリスマ性を感じとります。ところがその後衝撃の事実が。なんと女の子だと思っていた光は、男の子だったのです。しかも女装をしている理由が、「美しいから!」というからまたスゴい。名門私立から、動物園のような異色の学校…あまりに大きすぎるギャップに戸惑いつつも、徐々にクラスに溶け込み、さらに絆を深めていく様子を、テンポよく描いていきます。


勝利の悪魔
左が光。あくまで男の子。環境の変化を受けとめきれずに、つい要らぬことを口走ってしまうヒロインだが、光はまったく気にしない。その辺も、人気者である所以。


 これって何マンガになるんでしょうね。最初は、今までとはまったく異なる環境に放り込まれることで、それまでの凝り固まった考えの否定と解放、そして異なるものを知る面白さや、新たな価値観の指標の獲得…みたいな、いわゆる成長記みたいなお話かと思ったのですが、そういった側面は物語が進むとともに徐々に薄まってきます。そういう話は「山本善次朗~」でやっているので、同じってわけはないのか。とにかくメインはヒロインの田中森というより、相手役の光。女装はしているものの、トランスジェンダーとかってわけではなく、パフォーマンス的な側面が強いことを考えると、ドラァグという言葉が一番近いのかも。加えてとにかく竹を割ったような性格で、さらに理事長の息子でお金持ちという異色っぷり。そりゃ表紙も飾りますよ。裏表紙も彼メインで、表紙の折り込みも両サイド彼。ここまで徹底されると、清々しいです。
 
 結局進むところは、学園ラブコメディなのかもしれません。というとサラッとしすぎてますが、なんというか色々と詰まった学園ラブコメディ。一筋縄ではいかなそうな個性派を相手に、どう距離を詰めていくか、同じく個性的な脇役たちを交え、賑やかに展開していきます。なんとなく(物語の)目標は定まらない感があるものの、雑然とした印象は受けません。こういったノリは最近のりぼんを象徴しているようですが、上手い人が描くとしっかり形になるんだぞ、という好例か。他だと種村先生とかね。個人的にはゆったりとした「山善」の方が好きですが。


【男性へのガイド】
→百合的な…いや、さすがに無理があるか、それは。ノリの良い、個性派揃いの学園コメディ。そういったお話が好きな方は。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→オススメにしようか非常に迷ったのですが、ここまで色々詰め込まれると、オススメしづらいという。いや、面白いんですけどね。


作品DATA
■著者:槙ようこ
■出版社:集英社
■レーベル:りぼんマスコットコミックス
■掲載誌:りぼん(平成21年3月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

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