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*新作レビュー* 東村アキコ「海月姫」
東村アキコ「海月姫」(3)
作ろう!
クラゲのドレス作ろう!
そしたらこの金で…
天水館買うぞ!!!■3巻発売です。
尼~ずの楽園・天水館を地上げの魔の手から守るため、女装男子・蔵之介が金儲けを企みはじめた!「買いますよ」と宣言してしまった手前、もう後にはひけない。早速天水館にある金目のものを売ろうとするが、住人たちのオタクグッズは当然待ったがかかるし、アンティークっぽいアイテムはそんなに売れないし…。しかしそこに、一筋の光明が。クラゲオタク・月海の作るクラゲの縫い物が、意外にも好評だったのだ。これをきっかけに、一攫千金!…と思いきや、月海の心は蔵之介の兄・修と、その近くにつきまとう女狐の存在にかき乱され…
女狐こと稲荷さん大活躍。この作品がいい意味でお馬鹿でいられるのは、きっとこの人のお陰。やっぱり明確な対立構造と悪意があってこそ、スピーディーな物語展開が生まれます。さてさて、ストーリーでは天水館の買収騒ぎで盛り上がっているのですが、これがきっかけで、一つの重要なイベントが発生して参りました。それが「クラゲのドレスを作ること」。
1巻の時から、物語は大抵2人の視点から展開されていました。それは言うまでもなく月海と蔵之介なのですが、両者の語りが入る前のほとんどが、「母親へ向けてのメッセージ」という形式を取っていました。月海は亡き母へ、そして蔵之介は、幼くして別れた母親へ向けて。
1巻冒頭、月海の回想シーンより
お姫様のドレスみたいなフリフリのクラゲを見て
お母さんこう言いましたよね
女の子は大きくなったら
みんなみんな
美しいお姫様になれるんだよ って
このように、この作品の重要なモチーフであったクラゲとお姫様(ドレス)。それを母親との思い出に繫げ、さらにもう1人の重要人物である蔵之介の語りにも母親の影を感じさせる。それをどう繋げるのか気になっていたのですが、ここで繋げてきますか。2巻でさほど動きがなかったので、このままドタバタギャグで乗り切るのかな、なんて考えていたのですが、全然そんなことはなかったぜ。

3巻、蔵之介の回想シーン。こちらにもまた、母親との思い出に「ドレス」というアイテムが出てくる。
月海は当然は、クラゲのドレスを作ることで今は亡き母と繋がり、そして一方の蔵之介もドレスを通して、今は離ればなれになっている母と繋がるきっかけを得るのです。こうして心の奥底にあるつかえを取り払うことで、今の自分を認めることに繋がっていくのではないかな、と思ったり。そして天水館を取り返せば、居場所と仲間まで確保できるというね。とりあえずは、しっかりドレスを作り上げて欲しいものです。当然より道しまくりでね!
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