
どーする?
決まってんじゃん
穿つのよ
■三代続く茶道家の息子・謙清はある日、謎の美少女・小町から「余計なことに首を突っ込むと早死にする」と告げられ、さらには殴られる。全くの初対面でいきなりそんなことされたものだから、謙清も腑に落ちない。そんな中祖母から電話で「ある用事」を託かり、指示された場所に訪ねてみると、そこには民俗学者だという鈴木という男がいた。最初は単なる茶事の依頼かと思いきや、どうやらそれはなさそうで…
彼岸と此岸の狭間で起こる、現代怪奇譚でございます。茶道家の主人公・謙清と、彼にとある依頼を寄せてくるうさんくさい民俗学者・鈴木、そして彼の姪で謎の多き美少女・小町が出会い紡ぐ、ちょっと不思議でちょっと怖い、そしてちょっと切なくあたたかい物語。妖や霊といった類いのものを見ることが出来る小町と、それらを研究し何かしようとしている鈴木、そしてそんな鈴木にうまいこと使われてしまう謙清というのが、この3人の構図。鈴木と小町は親類関係にありますが、とある理由でお互いの雰囲気はあまりよろしくない様子。そんな二人の間に謙清は立つわけですが、彼自身はどちらかというと単純な男で、物事を深く考えずに行動するため、どちらにもいいように使われ、結果どちらに染まることもなくただただ深みに足を踏み入れてしまいます。

この性格に似つかわしくない可愛気なリボンがトレードマーク。基本自分ペースだけど、それが彼女なりの愛情表現でもあるわけで、ついついニヤニヤ。
いわゆる怪談系の話なのですが、作品として人間の感情発信のひとつの大きな枠組みがあり、そこの終着に向かって話が進行。そのため、単発ネタで楽しませるという側面はやや弱め。ただその分、極上の物語を楽しむことができますよ。説明するのが非常に難しいのですが、読後感が非常に良いのです。最初の印象は「ちょっと地味?」くらいなのですが、気がつけば引き込まれ、そして最後には「読んで良かった…!」と。そういった感覚をもたらしてくれる作品というのは、物語としてしっかり完結しているものが多いと思うのですが、これもまたしっかり1冊に納めてきており、作品の持つポテンシャルを十二分に引き出しているというイメージ。ツンデレ気味のかわいらしい美少女・小町に、なんだかんだでお人好しな単純野郎・謙清が話に色をつけ、鈴木と彼関係の怪しげな物事が、物語に独特の緊張感と怪しさを添える、そのバランス感が絶妙。とりあえず小町カワイイです。
新書館で妖というと、先月「まぼろしにふれてよ」(→レビュー)をご紹介しましたが、それとは雰囲気は異なるものの、根底にあるものは似ているのかな、という気もします。こちらの方が大人向けっで、やや渋めって感じですが。ただウィングスらしく、ヒロインにツンデレ的な属性を付与し、しっかりと酸化防止剤の役割を。この辺は抜け目ありません。
ちなみに作者のトジツキハジメ先生はBL畑の先生。またBLか、ということでそちらも後日チェックしてみましょうかね。まだまだBL作品のオススメは受け付けておりますので、なにかありましたらコメントなりメールなりで教えてくださいませませ。
【男性へのガイド】
→これはオススメできます。男性にもぜひ読んでもらいたい。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→☆4つが妥当かとも思ったのですが、個人的にもの凄くツボだったので。1巻でしっかりまとめてくる作品てのは好きですし、人間の切なさ成分を多めに含んだ妖ものってのが、何より大好物なので。独特の雰囲気が心地よい。オススメでございますよー。
作品DATA
■著者:トジツキハジメ
■出版社:新書館
■レーベル:ウィングスコミックス
■掲載誌:ウィングス(’08年12月号~'09年8月号)
■全1巻
■価格:562円+税
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