
それにしても男の身の上で
男と祝言をあげる羽目になった私の人生ほど
思うにまかせぬことはあるまい
■時は江戸時代。武家の庶子で側室の息子である鈴は、子宝に恵まれぬ本妻の目を恐れ、男に生まれながら女として、隠されるように育てられた。男としての自覚はある、しかし抗う術はない。その運命を受け入れつつ美しく育った鈴は、ある日町でならず者たちに絡まれたところを町人の新三郎に助けられる。初めて男というものを目の当たりにした鈴は、依頼男というものへの憧れを育て始めるようになるが、父の借財のカタに嫁入りを命ぜられてしまい…?
オススメされましたBL作品のレビューです。山中ヒコ先生の作品は、以前にも一般向けの「森文大学男子寮物語」(→レビュー)やBL作品の「王子と小鳥」(→レビュー)などをご紹介しましたが、その流れでこちらも。さてこのお話、舞台となるのは江戸時代。武家の庶子で、とある理由から男でありながら女として育てられた鈴が主人公。なるべく表には出すまいと、世間から隔離されるように育てられた鈴は、いつしか誰もが振り返るような美人に。そんなある日、乳母の孫と一緒に出かけた朝顔市で、ならず者たちに絡まれたところを、町人の新三郎という男に助けられます。ほとんど外の世界を見たことがなかった鈴にとって、ほぼ初めて目の当たりにする「男」という存在は、大きな衝撃となりました。自分も男として生きていけないだろうか…そう考え始める鈴でしたが、その矢先父親の借財のカタに嫁入りを命ぜられてしまいます。抗うこともせず嫁入りをした鈴でしたが、その相手を見て驚きます。それは、以前朝顔市の時に助けてくれた、新三郎でした。

あくまで女として嫁入り。名目だけの結婚という話なのだが、万が一に備えて自害用の小刀を手渡される。最後まで父からは愛されることはなく、不遇のままであった。
大きな特徴は、BLでありながら主人公が女として育てられ、女の格好をしているというところ。これがBLを読むのに慣れていない自分にとっては、プラスに働きました。二人の関係性に特化するのではなく、どちらかというと自分の存在そのものを問いかけるような内容になっており、ひとつの物語を形成。そんな鈴の存在を受け入れたのが、たまたま男である新三郎であったという。BLありきではなく、結果BLだったというようにすら感じてしまうような、その必然性。色物設定を存分に利用して、モノローグ先行で物語を展開し、湿っぽいけれどもなんとも不思議な味わいをもたらしています。というかビジュアル次第ではどうにでもなりそうって思えた私。セックスシーンは当然登場しますが、その分量はかなり控えめで、またBL作品にありがちなあからさま表現もなく、男性にとっては非常に読みやすい作品になっているのではないでしょうか。
そもそも男性同士の恋愛関係そのものに興味を持てないわけで、ならば見出す道はそのキャラに添えられている物語性なのかな、と。この作品はとりわけそういう側面が強かったように思うので、大丈夫だったのかな、という気がしなくもないです。まぁその時点でいわゆる腐女子の人たちとは、楽しみ方が決定的に異なるんでしょうが。
表題作の他に、真面目で人付き合いの悪い先輩と、人懐っこい新入社員の関係を描いたお話が収録されています。こっちはまぁいかにもBLという感じですが、お互いに遠慮しあっている感じと、後輩社員のかわいらしさがツボにハマリ、案外大丈夫でした。最後にはそんな二人を、ストレートな第三者視点から送る話が収録されており、腐女子的には得なのかな?などと思いつつも、男としてはありがたい話でしたので、美味しくいただくことができました。
【男性へのガイド】
→BLが決定的にダメということでなければ、読める水準にはあると思います。言ってみれば同性愛を許容する心さえあれば。男にも読めるような措置は、意図せずでしょうが多い気
がします。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→これは読みやすかったし面白かったです。「王子と小鳥」のように、説明ぶん投げでもなかったですし、江戸時代という時代設定も、ある程度こうしたファンタジーを許容できる下地を作り出しているような。
作品DATA
■著者:山中ヒコ
■出版社:新書館
■レーベル:ディアプラスコミックス
■掲載誌:Dear+(2007年12月号,2008年10月号)
■全1巻
■価格:571円+税
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