有田直央「日本サンタクロース株式会社」
私は
強く願えば
いつだって 飛べた■日本にたったひとつの、サンタクロースたちが働く会社・日本サンタクロース株式会社。冬は依頼主(対象は子供だけど)の元へプレゼントを届け、閑散期の夏は靴下を作ってなんとか凌ぎます。看護士から転職した研修中の女子サンタ、足を痛めて引退した老サンタ、そして施設で育った青年サンタ…。それぞれに、様々な思いを抱えて働く、サンタクロースたちの物語。今日もどこかで、サンタさんたちはこどもたちのために、一生懸命働いているのです・・・
「Starman」(→
レビュー)の片山あやか先生や、「カエデの恋」(→
レビュー)の霜月ミリ先生、そして「幸福ダイブ」(→
レビュー)の堀乃月先生を輩出した金のティアラ大賞(大賞はなんと賞金500万円!)にて、第2回「銀のティアラ賞」を受賞された先生の、初連載作でございます。お話は、サンタクロース株式会社というサンタクロースを派遣する会社で働く人たちを描いた、ファンタジー風味の感動物語。社員たちは老若男女おり、お客の依頼でサンタとしてプレゼントを届けます。機会仕掛けのソリにのり空を飛んで、オフシーズンの夏は靴下の生産に明け暮れるという設定付きで、それらの仕事をこなすには研修を経て腕を磨かないといけません。お話のメインとなるのは、様々な思いを抱えるサンタたち。半人前の女子サンタや、引退した老サンタなど、こどもたちとの関わりや思い出などを通して、優しく切ない物語を描いていきます。

絵柄もやや特徴的。頭身が低く角を感じさせない絵柄は、優しい物語をさらに際立たせる。
コーラス連載だからなのか、もともとの作風なのかわかりませんが、サンタクロースの会社というややエキセントリックな設定を用いていながらも、その印象は非常に地味。いや、地味と言うと誤解を与えてしまうか。素朴で優しい。派手さがないのは、サンタが相手にするのは基本的に子供であるため、物語に恋愛要素を投入するスペースがないためかもしれません。しかしながら、それが良いんだよ!正直読みはじめたときは、「地味だなぁ…口でっかいなぁ…」なんて思ってたのですが、気がつけばその優しくフワフワした雰囲気にのまれ、夢中で読んでいました。こういった物語にはありがちな、ある意味普遍的な悲しみや切なさを発端としているので、いくらかの既視感を覚えることもあるかもしれませんが、それは同時に素朴さと安心感を与える要素にもなり得るわけで、こういった優しい話が好きな人にはぴったりフィットするはず。なんとなく粗い感じは受けますが、新人さん基準でみたら全然気にならない程度かな。
また銀のティアラ大賞を受賞した「フロムエウロパ」と、もう1編読切りが収録されているのですが、どちらも独特の作風で不思議に魅せる、素敵な作品に仕上がっています。「フロムエウロパ」は、滅びゆく氷の惑星・エウロパに生きる二人の少女を描いたファンタジー作品という、ちょっと捻った作品なのですが、ラストはそうくるかと。どのお話も、やや頭身低めで目が大きいキャラで描く、優しさに包まれたような内容であるせいか、ちょっとした“おとぎ話”を読んでいるような気分になりますね。これはちょっと、これからの作品が楽しみな作家さんが出てきましたよ、はい。
【男性へのガイド】→素朴で優しい、ちょっとおとぎ話っぽいような、そんな作品が好きな方に。描かれる女の子が結構可愛いので、それもプラスになるかも。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】→クセがあるというか、独特ではある。まだ粗いし、話の引き出し自体もそう多くない気もしますが、これはちょっと好きです。新作出たらきっと買う。
作品DATA■著者:有田直央
■出版社:集英社
■レーベル:クイーンズコミックス
■掲載誌:コーラス(2009年9月号~11月号)
■全1巻
■価格:419円+税
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