
そう
世の中全部 回ってるんです
地球も時間も季節も
■読切り5編を収録。ということで、表題作をご紹介。
岡本モカ夫は実家の喫茶店でバイトをする高校生。彼女なし、熱中できるものなし、毎日コーヒーを運んで終わるだけの毎日…だったのだが、毎日喫茶店で受験勉強に励む女の子・奈美子に恋をしてしまった!少ないチャンス(コーヒーを運ぶとき)に懸け、アプローチをするも、尽くスルー。そんなふがいない息子の姿を見た父は、自分のプロポーズのときに使った「幸運のカップ」を授けられる。そんな彼女に、幸運のカップを、受験のお守りとして贈るも、そのカップはすぐに他の子供の手に渡ってしまう。「幸運のカップ」の辿り着く先は…?
浜心汐里(はまこ・しおり)せんせいの初コミックスだそうです。「幸福のカップ」で繫ぐ、小さな幸せのお話を描いた表題作をはじめ、心温まる短編集が5編ほど収録されています。それぞれ少しずつご紹介しますと…高校デビューを果たしたヒロインが、合コンにて中学での暗黒時代を作るきっかけとなった男の子と再会する「春色の肖像」。姉の恋人に恋する中学生が、ある日突然キレイなオトナの女性に姿が変わってしまう「*Blossom Season*」。バスの同乗者の男の子に一目惚れした女の子、一目ボレされた男の子、そして女の子の親友の女の子、3人の視点でそれぞれおくる「赤糸リール」。そして、幼なじみが狸の霊に体を乗っ取られてしまうことから始まる、ヘンテコストーリー「poco a poco」。どれも一風変わった手法を用いながらも、最後にはほっこり温かな気持ちになれるような、優しい物語構成になっています。

切なげで、優しい表情。絵は決して上手いとは言えないが、作風に非常にマッチしている。
「終わりよければ全てよし」という言葉がありますが、漫画でもラストがもの凄く良いと、その作品全てがもの凄く良かったかのように思えてしまう時があるんですよね。この作品集は、まさにその言葉がしっくりくるような印象で、とにかくラストが良いんだ!特別オシャレってわけでもないし、気どってるってわけでもないし、ごくごく明るく・優しい雰囲気を出しているだけなのですが、それが妙にツボにはまると言うか。短編は基本度肝を抜かれない限り、ハッピーエンドが良いんですよ、個人的に。また物語全体としては、なんというか垢抜けないダサさみたいなものを感じさせるのですが、その洗練されすぎていない絵柄やキャラ描写が、妙な温かみを生んでいて、やけに物語にマッチしていたりするから不思議。体が入れ替わる系統のお話が二つもあるように、ファンタジー要素を描こうという構えはあるものの、引き出し自体はそれほど多くないのでしょうか。
個人的に気に入ったのが、2話目に収録されていた「春色の肖像」。これね、もうラストが本当にやばかった。話の展開はある程度読めたのですが、あの締めはズルいだろと。あれが出た時点でオススメにしようと決めました。他にも読切りをさらに細かく切り分けて展開させるなど、色々な試みがしてあり、その辺も楽しめるのではないかと思います。現時点ではまだまだ粗い感じもありますが、なんとなく伸びしろを感じますし、何より自分好みだったので、応援したいと思ったのでした。
【男性へのガイド】
→素朴な雰囲気のあるお話が好きな方は。派手さがないぶん、足りないと思うことはあっても、拒否反応を示す方はほぼいないと思われ。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→滑り込みで来年以降注目すべき若手作家さんの登場です。現段階ではまだまだ発展途上も、これからさらに伸びてきそうな予感。何より好きな作風だったでで。
作品DATA
■著者:浜心汐里
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット(平成19年4月号),ザマーガレット(平成20年3月号,平成21年5月号),デラックスマーガレット(平成20年7月号,平成21年11月号)
■全1巻
■価格:400円+税
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