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Tag [新作レビュー] 2010.01.13
1102829815.jpg中村真理子「レッド・リン」(1)


自分のことは
自分でなんとかするわ



■老舗梅干し会社・ウメトウの娘・高遠林は、梅林にこもって梅の観察を続ける日々。梅林横に佇む小屋に寝泊まりし、学問に没頭していた。そこに現れたのは、台湾出身の兄嫁・メイファ。契約農家の娘で、器量もよく、気も利く良嫁だったが、どうにも信用できない。時折見せる悪意の欠片に、リンは過敏に反応する。メイファが嫁いで以降、ウメトウに不可解な出来事が続くようになり、リンはメイファの観察を始めるが…!?

 老舗梅干しメーカーを舞台におくる、女性二人の生き様・ぶつかり合いを描いた物語。1漫画1テーマが基本のKISSということで、読みはじめた時は「お、究極の梅作りとか、梅干し会社経営物語でも展開されるのかしら」なんて思っていたのですが、どうやら違ったみたいです。描かれるのは、ガチンコの人間ドラマ。そしてそのドラマを引っぱるのは、二人の女性でございます。一人はヒロインのリン。舞台となるウメトウの娘で、文字として書いたら、その内容をすべて覚えてしまうという特殊な能力の持ち主。それは即ち学問を修める際に有利に働くわけで、梅林近くの小屋にこもり、日々興味のあることを調べ覚えているのでした。そんな彼女の前に突如として現れたのが、もう一人のメイン登場人物・メイファ。リンの兄の元に嫁いできた台湾人で、容姿も頭脳も際立って良く、その全てが完璧に見える女性。何も問題のない人のように見えるメイファですが、リンからするとどうにも怪しい。確実に何かを企んでいるし、隠せるはずなのに、リンの前ではそれを隠そうとしない不可解さ。リンは、メイファの考えを知るため、彼女の観察や身辺調査を始めるのですが…という導入。


レッドリン
お互い自分の考え、自分の言葉を持っているから、ぶつかり合いも見応えが出る。牽制の時点でもなかなか。


 ヒロインのリンは、年頃にも関わらず色気もへったくれも無い風貌。学問ばかりに没頭する変わり者で、周囲の人間からも奇異の目で見られているような女です。一方メイファは、リンと同じような頭の良さを持っているものの、見ためもよく周囲からも一目置かれているような女性。不器用に突っ走るようなリンとは対照的に、人を上手く利用し計画的に周到に物事を運ぶような気質の持ち主で、気質としては真逆。それがぶつかりあうものだから妙にアツいです。ストーリーとしては、メイファの企みをリンが探るという軸から、女性二人の生き様を描いていくというものだと思うのですが、1巻時点では物語の全貌は見えず。明快でないぶんわかりにくいのですが、なぜか物語に惹き付ける力強さというか、勢いがあるように思いました。
 
 物語にも登場し、ヒロインの人物像にも少なからず影響を与えているのが、和歌山の偉人・南方熊楠。彼が登場する理由、そしてキーパーソンとして据えられている理由もまた現時点では明らかでないものの、後々紐解かれていくのでしょうか。名前は聞いたことありましたが、こんな人だったのですね。


【男性へのガイド】
→女のぶつかり合いではあるものの、ヒロインの気質からかやや少年漫画的な風合いも漂う。馴染みにくいテーマに、読みやすい雰囲気で、プラマイゼロという感じでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→わかりにくいというか、説明が足りない感が。ってのも少数巻で終わらせる予定はさらさらないからでしょうが。とはいえ熱量は序盤から有り余るっていて、わかりにくさをカバーできているので、読んだなりに楽しめるとは思います。


作品DATA
■著者:中村真理子
■出版社:講談社
■レーベル:BLKC
■掲載誌:
■既刊1巻
■価格:419円+税

■購入する→Amazonbk1

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コメント

 中村真理子先生といえば、「ギャルボーイ!」の印象がとても強い
(20年くらい連載していたのでは?)のですが、ここに来て新作を
発表してきたことに驚きました。
 しかも梅とは、なんという渋いテーマ・・。これは応援したいですね。
From: シャドー * 2010/01/14 21:39 * URL * [Edit] *  top↑
中村先生も長いですよね。
「ギャルボーイ」はドラマ化もされてた気がします。って全然覚えてないですが…。

梅というモチーフで、しかも舞台は和歌山、マイナー偉人の南方熊楠リスペクトと、かなり渋いです。
今の時点ではなんとなくアンバランスな感がありますが、熱量はスゴいと思いますよ!
From: いづき * 2010/01/14 23:29 * URL * [Edit] *  top↑

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