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Tag [新作レビュー] 2010.01.13
1102845459.jpgジョージ朝倉「テケテケ★ランデブー」(1)


それから愛は
どんな風にお前に
来たんだろう



■とある大学の農学部に通う三本杉たよ子。ギャルメイクでキャバクラでバイトをしている彼女は、とっても大食いの帰国子女。農学部生としては何もかもが規格外の変わり種の彼女の目下の目標は、彼女の無尽蔵の食欲を少量で満たしてくれる…ひいては世界の食料危機を救う、究極のエコフードを開発すること!それが達成できないと、大食い故に恋人もできない…。日々研究に明け暮れる彼女であったが、ある夜出会った動物病院の先生・獅子王が、彼女の頭から心から離れてくれない。なんだかわからないけれど、一目お会いしたい気持ちは日々募る…そんなたよ子の想いの行き先は!?

 ジョージ朝倉先生の新作来ました。ってまたスゴいのを送り込んできましたよ。「溺れるナイフ」(→レビュー)や「ピース・オブ・ケイク」(→レビュー)など、独特のセンスで切り出す恋愛ものを送り出しているジョージ朝倉先生ですが、「平凡ポンチ」や「カラオケバカ一代」みたいな前衛的な作品もいくつか発表していて、その度に度肝を抜かれるというのが恒例。今回は祥伝社刊ということで、落ち着いた作品がくるのかな、なんて予想していたのですが、いやこれがまた色モノだった。
 
 ヒロインは、農学部に通うギャルメイクで大食いの帰国子女・三本杉たよ子。彼女の目下の研究テーマは、究極のエコフードを創り出すこと。誰よりも大食いの彼女は、その豪快な食べっぷりを見られる度に男から引かれ全くモテず、また同時に食費がかさむことで生活も苦しいという悲しい状況。キャバクラでバイトをしているのは、稼ぐと同時にお客さんのお金で飲み食いが出来るから。その派手な見ためとは裏腹に、なかなか真面目な女の子だったりします。そんなこんなで、日々研究を重ねるたよ子でしたが、ある日動物病院の息子・獅子王と出会うことで、全てが一変。全てを包み込むような博愛の心を彼に感じた彼女は、すっかり彼のことが頭から離れなくなってしまいます。また逢いたい…なんて考えていたら、ゼミのイベントで小笠原諸島の離島へしばらく赴くことに。しばらく逢えなくなることに、寂しさを感じていたたよ子でしたが、なぜか小笠原諸島父島行きのフェリーには、獅子王の姿が…!?という感じでお話が進んでいきます。


テケテケランデヴー
基本的に出入りの激しい急がしめのお話なのですが、その流れすら一気にゆっくりスローに持っていく、獅子王の独特の空気。


 ヒロインのキャラがものすごく濃いですが、それと同じくらい、相手役の青年も存在感を醸し出しています。というのも、とにかくつかみどころがない性格の持ち主で、ヒロイン.たよ子を翻弄。一般常識が全く通用しない彼の真意は、全く掴めません。そんな謎多き男には、どうやらたよ子たちがしばらく赴く島に何やら因縁があるようなのですが、それは1巻時点では明らかにならず。2巻以降、そこで悶着していくのでしょう。キャラとしては、「ピース・オブ・ケイク」に出てきた川谷くんを、もっとフリーダムにした感じ。受けとめる器は大きいものの、そこには幾つもの大きい穴があいているような人物で、そんな変人に恋をしてしまった、常識にある変人・たよ子が、いっぱいいっぱいになりながらも彼と向き合っていくというのが、お話の軸。序盤は非常にカオスなので、いったい何を描こうとしているのかよくわからなかったのですが、なるほど1巻通してみれば、しっかり恋愛ものになっています。物語としても、今後展開できるような伏線が用意されており、楽しみ。脇役たちもそれなりに味付けされ、笑いには困らないような作りになっています。
 
 好き放題と自制が見え隠れする、不思議な作品の雰囲気なのですが、たぶんあっちこっち全力疾走で迷走しながらも、あるべき所に落ち着くのかな、という予感はしています。「平凡ポンチ」みたいなところにまでいくことはないんじゃなかろうか、と。正直あそこまで行かれると、私程度では消化できる範疇を超えてしまうというか。ちなみにこの作品の掲載誌は「ZIPPER」です。いわゆるファッション雑誌で、私の中では矢沢あいの「パラキス」連載のイメージが強く残っている雑誌ですね。どういうファッションとかは知らないですが、果たしてこの作品はどういった評価を読者から受けているのか、非常に気になる所です。とりあえず勢いに関しては、これ1作だけで雑誌を引っぱってしまうような感じも受けるんですけどね。


【男性へのガイド】
→平凡ポンチよりではあるものの、しっかりラブロマンス。だからって女性向きとかそんなのは、もうどうでもいい気がする。読みたい人は読むがいい。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→もしこれをおすすめにして得する人がどれだけいるのか、という。相変わらずスゴいけど、正直に言えば、わからない部分もある。それを踏まえた上で読み、同時に楽しめる人は、すでにこの作品を手にしているでしょうと思うのです。


作品DATA
■著者:ジョージ朝倉
■出版社:祥伝社
■掲載誌:ZIPPER(2009年7月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:933円+税

■購入する→Amazonbk1

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