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Tag [新作レビュー] 2010.01.14
1102828954.jpg森下薫「少女共和国 」(1)


だってさ…
俺らまだ
14歳だぜ?



■有名公立中学に通う透子は、クラスで委員も務める優等生。母親の再婚相手とも上手くやり、成績も優秀でクラスメイトともそれなりに仲が良い。一見順風満帆な学生生活を送っているように見えるが、それは透子が空気を読んで事なかれ主義を貫き通してきた結果で、ストレスや無力感もそれなりに感じている。それでも問題が表面に出なければ大丈夫。そう考えていた透子だったが、変わり者で周りと同調しない真っ直ぐな心の持ち主・ルイが転校してくることで、毎日は一変する。一人の友を得た透子が見つめる先にあるものとは…!?

 イジメ・学級問題ものに定評のある講談社さんが、またしても送り込んできました。今度はKissで、事なかれ主義を貫くヒロインが、一人の女の子との出会いによって変化していく様子を描いた、学校ものでございます。舞台となるのは名門公立中学校。地元の優秀な生徒たちが集うこの学校は、一見平穏なように見えるものの、それぞれに何かしらの鬱屈を抱えており、それが表面に出てくるのをそれぞれが抑え、かりそめの平穏を手にしているのでした。生徒たちに求められるのは、空気を読むこと。とにかく同調が最優先の中、ある日それとはまったく正反対の生徒が転入してくることになります。名門校ではどうしても浮いてしまう、茶髪にピアス穴、そして物怖じしないハッキリとした性格の持ち主女の子・ルイ。最初は空気の読めない彼女を迷惑がっていたヒロインでしたが、日々の歪みの積み重ねに我慢がきかなくなってきた彼女は、幾つかの出来事を乗り越え自分の信じる道を進むように。そして、いつも彼女たちの前に立ちはだかるのは、大人。大人相手に立ち向かっていくヒロインの姿を、怒濤の展開で描き出していきます。


少女共和国
悪者となる大人は、その悪さが強調されたようなキャラになる。そのためぎょっとするようなことをすることも。テーマが決まった上での手法としては、とっても有用だと思います。


 イジメとか学級問題を描いた作品ってのは、やっぱり中学生だからこそしっくりくるように思います。大人にも子供にもなりきれていない、微妙な年頃。大人の理不尽さを知り、少しずつ染まっていくものの、やはり染まりきることはない、微妙な年頃というか。このお話は、その中でもやや汚れが根深い、名門中学が舞台。その中でもより上手く立ち回っている女子がヒロインで、ある意味、その学校の象徴的存在として描かれています。そんな中に、何も汚れていない力強い光を放つ存在が投入されたらどうなるのか、そして汚れを生み出す根源である、大人という存在との対峙を、ヒロインの視点から描いていきます。
 
 徹底されているのが、悪者は大人であるということ。それはヒロインやクラスメイトの親であったり、担任の教師であったり様々ですが、非常にわかりやすい形で描かれています。この手の作品では、教師が一番腐ってる感じで描かれることが少なくないのですが、この作品もご多分に漏れず。実際どうなんでしょうね、とはいえそうしたほうが主題は描きやすくなるのか。ちょっと“良い子”な普通のヒロインに、真っ直ぐな心の持ち主である女友達、そしてそれを静かにサポートする男の子。恋も一応あるのかも。とはいえ全体的には重苦しく、やっぱりどこか後味の悪さも残りますね。ってこれはこういった作品の宿命か。


【男性へのガイド】
→人間の汚いところを増幅させたような部分が見えますが、それは大丈夫でしょうか。クラス問題とか、そういうものが好きな人は買って損は無いと思いますよ。セオリーをしっかり踏襲している。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→読み応えがあり、しっかりと描きたいことが描かれているように思えましたが、正直目新しさは皆無。大人対子供という、複雑に見せかけた単純なテーマも、個人的にはそこまで興味ないですかねぇ。。。いや、読み応えはスゴくありますよ、ええ。


作品DATA
■著者:森下薫
■出版社:講談社
■レーベル:KCKiss
■掲載誌:Kiss Plus(2009年5月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税

■購入する→Amazonbk1

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