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Tag [新作レビュー] [オススメ] 2010.01.21
1102828568.jpg都戸利津「群青シネマ」(1)


だからっ
撮るんだよ映画!!
俺たちで!!
映画作ろう!!



■1961年、夏   。担任だった水野先生が東京の研究室へ行ってしまってから3か月。栄朝日・里見たまき・弥方京一郎の成績優秀仲良し3人組は、受験生だというのに相も変わらず悪戯を繰り返し、一緒に過ごせる最後の夏を全力で楽しんでいた。「大好きだった水野先生を、楽しく驚かしてやろう」そう目論んだ3人が興味を持ったのは、資料室にあった8ミリシネカメラ。これを先生のいる大学の映研がやっている自主制作映画祭に出せば、驚かせられる。そう思いついた3人は、そのシネカメラで映画の自主制作を始めるが…!?

 前作「環状白馬線 車掌の英さん」(→レビュー)がもの凄く素敵なお話で、発売を心待ちにしていた本作。その内容は、1961年の瀬戸内沿いのとある町にある進学校を舞台に繰り広げられる、男子3人の青春物語でした。メインで登場するのは、明るく元気に真っ直ぐに育った・栄朝日、成績はダントツで優秀だが同時にかなりずる賢い・弥方京一郎、そして裕福な家庭に生まれ育ち小説家を夢見る・里見たまき。皆成績は優秀なものの、かなりの悪戯好き。3人でつるんでは何か悪戯をはたらき、その度教師たちから叱られているのでした。そんな3人が信奉しているのが、かつて担任だった水野先生。面白い物事を教えてくれたり、自分たちを驚かせて楽しませてくれた彼が、3人は大好きでしたが、先生はその後東京の研究室へ。そこで彼らは遠く離れた先生に、楽しませてくれたお礼に自分たちもびっくりさせてやろうと、何かできないかと画策しはじめます。そんなとき目に止まったのが、偶然忍び込んだ資料室の8ミリシネカメラ。これを使えば先生を驚かせられる。そう思いついた3人は、先日入賞したたまき小説を脚本にし、映画の自主制作を始めていくのですが、それが思わぬ方向に流れはじめて…というストーリー。


群青シネマ
初めて経験する感動、興奮。どんなに大変で、上手くいかないことがあっても、一気に吹っ飛ぶ。


 3年生で、一緒に過ごせる最後の夏休み。悔いの残らないように、全力で今を楽しみたい。そんな3人が自主制作映画に挑戦。これだけ見ると、爽やか一辺倒の青春物語のように見えますが、それだけではありません。比較的恵まれた家に育った弥方とたまきのふたりは、今だけでなく将来のことも考えており、それが物語に微妙に影響してくるように。弥方には許嫁がいたり、父親のあくどい商売による悪い噂があったりとしがらみが多く、また彼自身も将来の自分の身の振り方をかなり深く考えています。またたまきも、小説家になりたいという夢を抱えるも、声楽家の母にはそのことを伝えられないまま。映画製作と限られた時間・予算という過程を通して、そんな彼らの進路、思惑が徐々に明らかになり、物語は進んでいきます。悔いがないよう全力で楽しみたい、けれど思い通りというわけにはいかない。そんな一生懸命さともどかしさが同居した、この時代、この年齢ならではの物語が描かれています。
 
 8ミリフィルムっていうのは今ではあまり馴染みがないですが、1960年~70年代あたりにかけて一気に隆盛をきわめたようですね。比較的扱いやすいものだったらしいですが、それでもなんの経験もない学生が簡単にいい画を取れるほど甘くはなく、失敗もします。またフィルムは高価ですし、現像代もバカになりません。それでも工夫をしながら良いものを全力で作り上げていく。そういった光景というのは見ていてやっぱり気持ちがよいです。現代ではこれがアニメ制作に変わるんですかね。映画よりも、「空色動画」とかそういった系統の活動の匂いを感じました。

 同じレーベルで全力で青春!というとあきづき空太先生の「青春攻略本」(→レビュー)を思い出しますが、あちらに比べてこちらは地味。また映画製作というひとつの固定されたモチーフで物語が展開されるため、こちらの方がよりストーリー性は強いように感じます。「車掌の英さん」でも、最後に完璧に近い形でしっかりと物語を形作ってきた先生ですし、この作品もかなり期待できるんじゃないでしょうか。続きをよむのが楽しみです。
 

【男性へのガイド】
→男の子視点なので読みやすいと思いますよ。腐サービス的な側面も薄いのではないかと思いますし。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→ちょっと地味かもしれませんが、やっぱり面白さは出してくるんですよね。今どきではない青春ストーリーを堪能したいという方に。


作品DATA
■著者:都戸利津
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:別冊花とゆめ(平成21年8月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

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