
大丈夫
…これは「多分」じゃなくて
絶対
■ここは燈京都星屑町。立派な建物にはさまれた、あんまり立派じゃない細くて長い、まるでパンの耳のような形をしたお家
シルフ連載の、レトロモダンな世界を舞台におくる、ちょっと不思議な事件簿です。舞台となるのは、大正・昭和を思わせるような、レトロモダンな都市・燈京にある星屑町。その町にある、パンの耳のような形をした家に住む女学生・園村ミミがこのお話のヒロインになります。母はすでに他界、便利屋をしている父はとレジャーハントの依頼を受け以降音信不通に。ミミは弟とふたり暮らしで、叔父の支援を受けながら学校に通っているのでした。そんなところに現れたのが、「捜し屋」と名乗るメガネの男ふたり。突然わけのわからない男が現れたことに驚き戸惑うミミでしたが、何やら彼ら、父親の依頼で父親を捜すという、摩訶不思議な依頼を請け負って父を捜しているとのこと。「捜してほしいのに捜してほしくない」父親のわけのわからない意図に困惑するミミと捜し屋のふたりでしたが、とりあえず父親が生きていることを確認できて安心。その後もホテルに泊まりながら捜索を続けるという捜し屋に対し、近くにいた方が情報がすぐにわかるし、お家賃も入るからと、ミミは同居を提案。成り行きのまま、彼らと一緒に暮らしながら、父親の行方を捜すのでした。

作品全編を通して、人間の「良い感情」が描かれる。そういったお話は、何はなくとも温かい気持ちにさせられるわけで。
タイトルに舞台もさることながら、絵もなんだかのっぺりしたような柔らかな印象を与える描き方。ちょっと古くさいのかな?なんて思っていたら、巻末コメントに「ぬりえのような、古い少女誌のふろくのようなものを目指している」とのことで、なるほど、全てが物語を彩るための要素になっているのかと感心。ヒロインは真っ直ぐに自分の好きな物を信じ、明るくシンプルに物事を考えるのですが、その年齢の割にちょっと子供っぽく見えるあたりも、なんとなく「おとぎ話感」を醸し出しているのかな、と。わけの分からないままに不思議な事件に巻き込まれ、それを不思議な存在である「捜し屋」と一緒に紐解いていく、その感じが、独特の不思議な安心感とワクワク感を与えてくれます。父親は行方知らずながら常に近くにいるらしいのですが、どうにも手のひらの上で踊らされている感が。彼の思惑がどんなものだったのか、この作品の最終的な評価はそちらにかかってきそうですが、果たして。
「捜し屋」のふたりは共にメガネ男子。このへんはさすがシルフ連載というところ、しっかり萌えを押さえてきています。一人は年上で優しいお兄さんタイプのメガネさん、そしてもう1人は、不思議な力を持つクール系のメガネ男子。このクール系のメガネくん・晶が、この作品のひとつのキーに。持っている不思議な力というのは、何でも見通す千里眼を持っているということで、この稼業にはうってつけ。しかし力も万能というわけではなく、相手が何かしらの強い意思を持っていないと捜し出せないし、そういった能力を持つが故に周りからは奇異の目に晒されることに。また集中すると他のことが全く目に入らなくなるという不器用さを持ち合わせており、それが彼を塞ぎ込みがちにさせているのでした。そんな彼と、元気で明るいヒロイン・花を出会わせた、父親の意図とは。基本的に優しさと不思議さからできた、とても気持ちの良いお話。特殊な能力も、ちょっとした無茶な展開も、この作品に流れる不思議な空気感が許容させてしまいます。
【男性へのガイド】
→シルフはそれなりに男性にも読みやすい作品が揃っていると思います。この作品も、基本的には女性向けの作りではありますが、懐かしさにも似た温かさは万人が共有できるものだと思います。なんとなく気になった方は、手にとってみてはいかがでしょうか。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→こういったおとぎ話のような作品は個人的に大好き。なんか垢抜けないなぁという印象も、意図したものであるということがわかれば納得納得。なんとなく懐かしいような感覚を味わいたい方に、オススメです。
作品DATA
■著者:松本花
■出版社:アスキー・メディアワークス
■レーベル:シルフコミックス
■掲載誌:シルフ(Vol.1~連載中)
■既刊1巻
■価格:580円+税
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