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Tag [オススメ] [新作レビュー] 2010.01.26
bakuya.jpg群青「獏屋鶴亀放浪ノ譚」


私はもっと
あなたのそばにいたい



■人の悪夢に潜り込み、ときにその心までも食べてしまうことのある獏。姿形は様々で、目に映らないものから、動物や草花を模したもの、河のような大きな巨体を持つものまでいるという。そして同時に、何百年も昔から、この国の人々は獏に悩まされてきたのだ。そんな獏を夢から引きはがし封印することが出来る青年・舞鶴と、少年・亀之介の二人は、「獏屋」として獏の出るところを巡り全国を放浪中。兄妹、親子、想い人…その道すがら出会う、悪夢に苦しむ人々の想いを、「獏屋」の二人が解きほぐす!

 悪夢に入り込み、夢を食うどころか果てはその人の心までも食べてしまう獏。一度獏に憑かれてしまうと、夢から引きはがすのは困難で、普通の人間では成す術がありません。そんな彼らを救うのが、獏を夢から引きはがし、封印までしてしまう「獏屋」という存在。その中でも、そこそこ名が知れ腕が立つ二人組がこのお話の主人公になります。一人は「その血に万能の力を宿す」と噂されるお気楽青年・舞鶴と、「その血を得た左腕に斬れぬものはない」と恐れられる少年・亀之介。そんな二人が向かう先々で出会う、獏に取り憑かれた人たち。彼らの抱える悪夢の先には、心弱り果てるだけの、哀しく切ない想いがあるのでした。


獏屋
根底にあるのは、本当に純粋で切実な想い。それを、捻曲がった形で現れた悪夢を解きほぐすことで露にする。


 群青先生というと一迅社のイメージ(→「橙星」レビュー)が強いのですが、この作品はバーズコミックスからの刊行。元は角川書店のComic新現実という雑誌にて連載されていた作品なのですが、この度幻冬舎でまとめられ発売に至ったそうです。ちなみにこちらが群青先生のデビュー作になるのですが、やっぱり好きです、群青先生。決して明るいだけではない、切なさや哀しさ、そして救いのない届かぬ想いが、獏に取り憑かれた悪夢を通して描かれるわけですが、このどこかに残るやるせなさみたいな感覚が非常にツボで。このかわいらしい絵柄とのアンバランスさが、余計に物語に引き込ませてくれるような感覚があります。
 
 この作品で描こうとしているものは、たぶん「橙星」に通じるものがあって、先生の作品が好きな方であれば大満足な出来かと思われます。それは同時発売の「黒甜ばくや薬笥ノ帖」にも言えることなのですが、こうして一貫したメッセージというものを届けてくれるというのは、ファンとしてはとてもうれしいこと。また他の作品と同じように、わかりにくい表現がたびたび見られるのですが、この作品に関しては読切り形式という側面が効いているのか、後半に進むにつれ物語の難しさは解消されていきます。かわいらしい絵柄に隠れたダークさと、物語のわかりにくさという面から、オススメすることが憚られた群青先生の作品なのですが、これに関してはオススメしても良いのではないかな、と思いました。切なさや哀しみ、ダークさはもちろんあるけれど、最後に描くべき優しさや愛しさといった感情が多めで、かつわかりやすく描かれていいるので。

 ちなみに獏を描いた作品としては、びっけ先生の「獏-BAKU-」(→レビュー)という作品がありますが、あちらでは獏は悪夢を退治する正義の味方。それがこちらでは、獏は悪役と、取り方ひとつでこうも変わるのかと驚かされました。系統としては同じような作品なんですけど、状況は全然違うという。ちなみにびっけ先生の「獏-BAKU-」も非常に面白い作品ですので、気になる方はチェックしてみてください。


【男性へのガイド】
→少年の不思議な力を使ったバトルシーンは、少年マンガ的なアツさを感じると言うよりは、女性向けのソレという感じが強いです。とはいえそういった描写は後半には少なくなり、同時に物語もわかりやすく、男性にも読みやすくなったような。かわいらしい絵柄のファンタジーがお好きな方は。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→群青先生の作品は大好きなのですが、わかりにくさがあって、おすすめしづらいというのが悩みの種でした。けれど、この作品に関してはおすすめしてもいいかも…と。入り口としてひとつ。


作品DATA
■著者:群青
■出版社:幻冬舎
■レーベル:バーズコミックスガールズコレクション
■掲載誌:Comic新現実(2004年9月号~2005年8月号)
■全1巻
■価格:619円+税

■購入する→Amazonbk1

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