
わからない
私は
■悪夢から人を救う“ばくやく”を処方する店・ばくや。ワケありの客・ワケありの店員で一杯のこの店に、放浪中の店長から、定期便の“獏”が送られてきた…と思ったら、中に入っていたのは普通の“少年”!?過去の記憶がなく、眠ることができないというその少年・多門の正体は、どうやら取り憑いた獏の分離に失敗し、人と獏が混ざった不思議な存在らしいのですが……。
先日紹介しました、「獏屋鶴亀放浪ノ譚」(→レビュー)のスピンオフのような位置づけの作品でございます。お話の舞台となるのは、「獏屋鶴亀~」に登場した舞鶴の経営する「ばくや」。ばくやは悪夢に苦しむ人たちを助ける、道具やアドバイスなどを処方するところなのですが、そのひとつとして獏の管理も行っています。そんなところに、いつものように舞鶴から届けられた定期便の獏。その包みを開けてみて、店番達はびっくり。中にはとても獏に見えない、普通の少年が入っていたのでした。多門と名乗るその少年は、過去の記憶を失っており、さらに夜眠れないという特殊な体質を持っていました。どうやら彼は、取り憑かれていた獏の分離に失敗してしまった、獏のような人のような不思議な存在らしく、舞鶴がそんな彼を引き取って店に送ったのです。送られてきた少年・多門は、ワケあり揃いのばくやの一員として、店の手伝いを始めるようになります。

ばくやの店員達は本当に皆ワケありで、特殊な存在である多門がいてもさほど目立たない。それが彼の居心地の良さを作り、同時に必要性の欠如を感じさせるようになるのかも。
「獏屋鶴亀放浪ノ譚」は、獏と悪夢に苦しむ人々の想いを各話ごとに描いた、読切り形式のお話でしたが、こちらは常に少年・多門の視点から語られる連作で、彼の存在とその想いを一貫して描いていくことに焦点があてられています。そういう意味では、こちらのほうが描き出す世界はよりミニマムではあるものの、その分深みを生み出しているようにも思えます。主人公である多門は記憶喪失ではあるものの、獏に取り憑かれて以降、親族をはじめ村じゅうの住人から恐れられ、腫れ物を扱うように接されていたことはしっかりと認識しており、そのことが彼の自己評価に大きく影響。「自分は何者なんだろう」という意識と同時に、「自分はいらない存在、失敗作なんだ」という認識が時折顔を覗かせ、彼を混乱させます。自分は何者であるのか、そして自分の居場所はあるのか、ばくやの手伝いを通して多門は模索していきます。またワケありなのは多門だけでなく、店員達もお客さんも。そういった環境の中にいるからこそ、自然と受け入れられ、自分の居場所も見つけやすくなるのでしょう。
「獏屋鶴亀~」を読まなくても、ある程度物語の把握はできますが、“獏”の説明が端折られていたり、彼がそこに送られてきた過程が最後のほうまで明らかにされないなど、読まないとわかりにくい部分が幾つかあるかもしれません。「獏屋鶴亀~」を読んでおけば、よりわかりやすく、より深く作品を味わう事が出来ると思うので。またこの作品はWebスピカにて連載されていた作品。作品としてのまとまりは、こちらの方が良い気がします。なにはともあれ、ファンであれば買っておいて間違いはないと思いますよ。
【男性へのガイド】
→「獏屋鶴亀~」が良かったのであれば。基本的に男女どちらでもOKだと思います。かわいらしい絵柄がお好きな方もどうぞ。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→こちらも面白かったのですが、「獏屋鶴亀~」の予備知識があったからこそという感は否めず、ここまで。
■作者他作品レビュー
群青「橙星」
作品DATA
■著者:群青
■出版社:幻冬舎
■レーベル:
■掲載誌:バーズコミックスガールズコレクション
■全1巻
■価格:619円+税
■購入する→Amazon