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Tag [続刊レビュー] 2010.01.29
作品紹介→藤村あゆみ「ティンダーリアの種」



1102829954.jpg藤村あゆみ/霜月はるか&日山尚「ティンダーリアの種」(2)


「わたし」のこと
「パセリ」のこと
覚えていてね



■2巻発売、完結しました。
 「アリア」という悪魔が棲む森から、資源を採取する隊員になったソルトは、森でアリアの少女・パセリと出会う。パセリと親しくなり、アリアと人間の共存を模索するソルトだが、事はそうやすやすと運ばない。アリアを恨む隊員・ローズウッドと、人間を憎むアリア・グレンバーンが衝突し、ローズウッドは瀕死の大けがを負ってしまう。その事を知ったソルトの父で大隊長のユンデは、アリアを排除し永遠の恵みを手に入れるため、森への侵攻を進めることを決めたが…!?


~気持ちよく完結~
 ボーカルアルバムが原作となったこちらの作品、大円団で2巻完結となりました。原作から多少のエピソードの追加などはあったらしいですが、恐らく軸はそのまま。おとぎ話のような幻想的なストーリーが、最後まで淀みなく展開されました。

 この世界というのは特殊な世界で、おそらくこの世界には彼らしか存在しません。おとぎ話用の、非常に小さい世界が舞台(森と街、そしてそれを結ぶ荒野のみ)となっているはずです。そうでなければ、アリアを駆逐してまで森を落とそうという考えにはならないでしょうし、話のオチをみても、やはりその方が納得がいくかな、と。伝えたい教訓みたいなものがあって、それを体現するのに一番適した世界設定になっているというか。


~どちらが正しいってわけでもない~
 この手の作品では、何かにつけて人間が悪いみたいな描き方がされることがあったりするのですが、この作品はどちらもそのシステムに不具合を抱えています。人間は感情を守った代わりに、その世界に生きる役目をなくし、際限なく増え続けてしまいました。それを端的に表しているのが、人口増加による食料不足と、祭りってところでしょうか。それに対しアリアは、森を守り生命を吹き込むという役目を守った代わりに、感情のほとんどを失ってしまいました。身勝手さを発揮する人間が発端ではありますが、アリアもまたシステムに不具合を抱えていたというか。最終的には脱アリアというところに着地するわけですが、そこに辿り着くまでにはアリアの存在は不可欠で…まぁ何と言いますか、よくできた物語だなぁ、と。展開的には予定調和というか、絶対的な存在によるご都合的な部分が見られるのですが、おとぎ話って基本そういうものだし、だからこそ納得できるお話ってのもあるわけで。


~とりあえず気になる方は、手に取ってみて~
 ホントは話の端々にある教訓というか、大切なものを拾って書いていきたいんですが、ネタバレ的にも私の力量的にも難しそうなのでこの辺で。非常にオーソドックスな、民話・伝承のようなお話ですので、そういうものがお好きな方は、是非手に取ってみてください。これが現代において正しいことなのかはわかりませんが、正しいと信じて行動し、結果を残すことってのは、今も昔も変わらずスゴいことで、素敵なことだと思います。


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