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Tag [オススメ] [新作レビュー] 2010.01.29
syuudennsya アルコ「終電車」


明日は
どんな日になるのかな



■今日と明日を繫ぐ「終電車」。進路・友人関係に悩み全てを捨てたいと願う少女。忘れなくてはいけない、けれど忘れられない想いに悩む青年。憧れの人と結ばれることを神様に願うも報われない少女。そして仕事も恋も上手くいっていたはずが、ちょっとずつ歯車がずれてきてしまった新人編集者。迷い、戸惑い、つまずきながらも、明日に向かって歩み続ける。レールの先に連なる、未来を信じて   

 アルコ先生が「終電車」をモチーフに描く、珠玉のオムニバス集です。収録されているのは4話。人間関係や進路に悩む女子高生や、忘れられない想いを抱える青年、ガラにもなく恋をしてしまった少女に、社会に出て価値観が揺らぎはじめた新人編集と、その主人公は様々ですが、どれも「終電車」というモチーフがあるように、とある「終わりとはじまり」を描いた物語たちとなっています。どれもが、その話だけで完結しているようなものではなく、一つのことに整理をつけ、新たにスタートを切るというところまでを描いたストーリー。どれも切なさやしんどさを抱えつつも、最後には前向きな気持ちになれるので、個人的にこういったお話は大好きなんですよね。


終電車
己の気持ちの整理という部分に比重が置かれているので、モノローグもその時々で挿し込まれる。しかしそれだけに頼るのではなく、必要最小限に留めるのでアッサリめで、しつこくなりすぎない。


 アルコ先生の作品で一番知られているのは、おそらくドラマ化もされた「ヤスコとケンジ」だと思います。あの作品に代表されるように、個人的にアルコ先生は、ハイテンションでどこか“変”な世界観とキャラ設定を用いたコメディ主体の作品を描いているイメージが強いのですが、今回はガチンコでシリアスなストーリーを描いてきており、スゴく驚きました。確かに今までの作品でも、シリアスに人の心を描き出すような部分は端々に見られたのですが、ここまでガチンコで描けるとは。特に始めの2編はコメディ要素はほぼナシ。残りの2編はちょっとアルコ節を感じさせる、ぶっ飛んだキャラが登場しますが、それでも作品の軸はしっかり守られており、通して非常に気持ちのよい物語を楽しむことができます。アルコ先生の作品は連載作のみで、他はあまり読んでいなかったのですが、これを機に読んでみたくなりました。こういう作品も描かれるんですねー。
 
 またその反動かわかりませんが、同時収録の読切りは「画太郎か!!」と思わず突っ込みたくなるような、とんでもなくぶっ飛んだ作品が描かれています。正直これは少女漫画としてはアウトなレベル。ジョージ朝倉の「カラオケ馬鹿一代」に匹敵するか、これは。けれど「終電車」という1冊の作品で見たとき、シリアス~ぶっ飛びまでかなり広い幅でアルコ先生の作品を見られるというのは、取りようによってはとてもオトクなわけで。「アルコ」という漫画家を知るのには、ある意味うってつけと言えるかもしれません。いやちょっと触れ幅大きすぎるかな…。
 

【男性へのガイド】
→男性メインのお話もありますし、基本的にパワフルなので、読みやすいんじゃないでしょうか。恋愛も不器用さが際立ったようなもので、かつご都合展開がないので、そのへんもフィットしそう。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→この手の作品は大好きなのですが、アルコ先生が描いたということで驚きは倍増。短編集って買ってみるべきなんですよね、やっぱり。非常に気持ちの良い読切り集です。気持ちをリセットし、さらに新たなスタートを切りたいという方に。


■作者他作品レビュー
アルコ「超立!!桃の木高校」


作品DATA
■著者:アルコ
■出版社:集英社
■レーベル:マーガレットコミックス
■掲載誌:別冊マーガレット(平成21年3月号~5月号)
■全1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「別冊マーガレット」コメント (6)トラックバック(0)TOP▲
コメント

ご無沙汰してます。
アルコ先生!!大好きなんです。そうです!読み切りでシリアスなのをたくさん描いてらっしゃいますよ。私は、全作品持っていますが、読むたびに「いいなぁ」ってしみじみ思います。
過去の作品のレビューを楽しみにしてますね!あ、咲坂伊緒先生の過去の作品もすっごく良いですよ!もし、まだ読んでないようでしたら、こちらも是非!
それでは、(^v^)
From: おか * 2010/01/30 02:12 * URL * [Edit] *  top↑
お久しぶりです。
やっぱり読切りだとそういった作品も描かれているのですね。
俄然買いたい気持ちが高まりました!
咲坂先生の作品含め、読んだらまた頃合いを見てレビューしたいと思います。
コメントありがとうございました。
From: いづき * 2010/01/30 20:04 * URL * [Edit] *  top↑
いづきさんこんにちは^^
ほんとこれ、どれも読後感が気持ちいいものばかりでしたね。
最初の2話でちょっと切なくてしんみりした気分になってたら、
次のぶっ飛んだ女の子の話しで思いっきり吹き出してしまって…(^^; 
正直、少女マンガであそこまで強烈なお顔…
生まれて初めて見ました私w
でもそれが全然普通に、というかドキドキワクワクと読めてしまうから
アルコさんやっぱりすごいなって。

忘れられない想いに悩む青年のストーリーがかなり好きだったのですが
どれもいいから決められないと思いますけどいづきさんはどのお話が
一番お好きでしたか?^^
From: ひろ * 2010/01/31 19:46 * URL * [Edit] *  top↑
いつもありがとうございます。
この作品でこんなに反応貰えるとは思っていなかったので、ちょっとびっくりしています(笑)
ひろさんは2話目が好みでしたか!
私は選ぶとしたら…3話目のあの女の子の話ですかねー。
物語の系統としてはひろさんと同じく2話目が好みなんですが、あれはアルコ先生でなくても描けそうな気もするんですよね。
でも3話目のあの女の子の話は、アルコ先生にしか描けないんじゃないかな、と(笑)
読んだ後一番元気を貰えた気がして、とっても素敵なお話だと思いました!
From: いづき * 2010/01/31 22:29 * URL * [Edit] *  top↑
 いづきさんお疲れ様です。
 個人的に、「電車」を舞台に人間模様を描く漫画というのは、大人向け、それも中高年向けの漫画のジャンルという印象がありました。
 それを、「別マ」+「デラマ」+「アルコ先生」で、このジャンルを描くということで、どういう内容なのだろう?と思いながら読んでいたのですが、みなさんがコメントされているように、とても読後感が良い作品ばかりでした。
 
 1話目や4話目で描かれていましたが、学校や職場の往復だけの生活を続けていると、どうしても、その世界が自分の世界の全てになってしまいがちです。
 私自身そんな世界に疲れたとき、電車に乗って遠出をして、気分転換をすることがあります。4話目の最後のページは、まるで私自身を見ているようでした。
 単行本の帯表紙に、「これはあなたのことを描いた物語です」とありましたが、本当に
そう感じました。素晴らしかったです。
From: シャドー * 2010/02/01 21:44 * URL * [Edit] *  top↑
ありがとうございます。
シャドーさんもこの作品を…大人気ですね(笑)
本当に帯の「これはあなたのことを描いた物語です」というフレーズは秀逸でしたよね。
ああいった作品は普遍的なテーマを描いているとはいえ、やはり共感せざるを得ないと言うか。
いやぁ、この作品に出会えて良かったとつくづく思います、はい。
From: いづき * 2010/02/02 21:16 * URL * [Edit] *  top↑

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