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Tag [オススメ] [名作ライブラリ] 2010.02.04
07171279.jpgタアモ「あのことぼくのいえ」


ぼくはいつでも
君を想ってる
ぼくと君のいる
この場所で



■ぼくの名前は海、恋する2歳(♂)。とある高校の寮で、アイドル犬をしている。ぼくはここに自分のことを置いてくれた朝香ちゃんのことが大好き。今日あのこは学校でどんな話をしたのだろうとか、何を考えていたのだろうとか、今日の散歩当番は誰なんだろうとか、毎日そんなことを考えて過ごしている。ここの寮の人たちは、よくぼくのところにきては愚痴をこぼしたり話をしたりしにくる。このお話は、そんな彼らとぼくの、恋のお話なんだ。

 犬視点で語るあらまししょうかいの難しさ。序盤カワイさ重視でいたはずなのに、気がつけばカラパイアのパルモさんみたいになってたよ…。ということで、タアモ先生の連作読切り集のご紹介です。まず表紙が反則なわけですよ、表紙が。ちょっとこれ可愛すぎだろ、と。担当さんのアイデアらしいんですが、ナイス担当さんと言わざるを得ない。裏表紙も可愛らしいです。そんな本作の内容は、時々犬視点で語られる生徒たちの恋物語。とある高校の寮で飼われているワンコ・海(♂)と、そこに住む生徒たちの恋模様が、ふわふわとした独特の絵柄で描かれていきます。


あのことぼくのいえ
モノローグは海のもの。他の登場人物のモノローグは挿し込まれない。


 主人公はあくまで海くん。彼もまた、恋する若者のうちの一人(一匹)であったりします。恋のお相手は、この寮に彼が飼われるきっかけとなった女子生徒・朝香ちゃん。1話目,2話目はあくまで語りという役を担う彼ですが、3話目は自ら物語に積極介入し物語をもり立てます。あくまで海視点というのが前提なので、モノローグは海のもののみ。ゆえに恋愛の当事者たちの心情は、台詞と考えを表す吹き出し、表情などに集約され、私たちは一歩引いた位置からその様子を見守ることになります。なにかとモノローグに頼りがちな作品が多い中で(例えば羽海野チカ先生の「ハチミツとクローバー」なんかその最たる例だと思う)、その“読み手”を当事者ではなく外部の存在させながら展開する恋物語ってのは、なかなかスゴいことなのではないでしょうか。ましてや2話目なんて、それに加え男の子が話のメインですからね。ベツコミという掲載誌の性格を考えても、「感情移入」というのは最優先事項なわけで、そんな中犬視点+男の子メインという二つの不利な要素を用いてくるってのは、かなり勇気の要ることのように思います。しかもそれが、しっかりときめきを残していて、面白いときてるから困る。もうね、この作品大好きなんですよ、私。
 
 表題作は3話のみ。いわゆる小学館十八番の「お試し連載」ってやつです。そこに加え、読切りがもう一編収録されています。こちらは過去と現在がクロスオーバする、ちょっとファンタジックな1作。こちらの方がよりタアモ先生っぽい印象がありますね。素朴な恋心に、少し不思議な要素を絡めて、ちょっと幻想的な雰囲気で話を展開する。ベツコミにはそぐわなそうですが、やっぱり素敵なお話。要するに個人的に大満足の1冊であるわけですよ。


【男性へのガイド】
→男の子視点の話もありますし、基本的には読みやすいと思います。可愛らしいお話が好きな方は。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→タアモ先生の作品の中でも、特に好きな作品のひとつです。犬の散歩って結構いいデート材料になるんですよね。時間を二人だけで共有できる感覚がとっても強いし、犬がいるので話も途切れることがないですし、共同作業的感覚で、なんだかやけに親しくなったような感じがしたり。そういった感覚を、よく表していると思います。


■作者他作品レビュー
タアモ「お願い、せんせい」
タアモ「初恋ロケット」
タアモ「吾輩は嫁である。」
タアモ「ライフル少女」



作品DATA
■著者:タアモ
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:Betsucomi('06年6月号~8月号)
■全1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

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