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Tag [新作レビュー] [読み切り/短編] 2010.02.06
1102874198.jpg辻田りり子「不思議な温度で」


わからないのなら
知ればいいじゃない



■読切り5編を収録。それでは表題作をご紹介。
 中学時代、周りとはどこか温度が違って見えた、転校生のイソベ君が気になった良子。誰かの事をもっと知りたいと思う気持ちを、「恋」と言うのなら、これはもう「好き」なのかも。そう思った良子はとりあえず「好き」だと彼に伝えるも…?その後高校、大学へと進んだ彼女に待っていたものとは…。
 
 連載作「笑うかのこ様」(→レビュー)が好評だった辻田りり子先生の読切り集です。現在は「かのこ様」の高校生編「恋だの愛だの」を連載中。そんな先生の、平成18年の作品から、平成21年のつい最近の読切りまで、5編が収録されています。「かのこ様」連載前と後の作品が両方収録されてるってこと。最も古い作品である「赤い予感」に比べると、最も新しい作品である「二階堂孝文考」を比較すると、絵の安定感が全然違います。そういったところを楽しめるというのも、短編集の一つの楽しみ。漫画家さんってのは、日々進化し続けているのだなぁ、と実感させられます。


辻田りり子「不思議な温度で」
超不運な少年のもとに福の神が訪れる学園コメディ「たのむよ神様」。5編の中でも特にハイテンションで、個人的にお気に入り。このノリが好き。


 「笑うかのこ様」もそうなのですが、どこか“普通”とはズレたキャラクターがどの話にも登場します。表題作の「不思議な温度で」は少しその要素が薄いように感じますが、「赤い予感」のサバサバ具合や、「ささくれ姉弟」の弟くんの天然っぷりや、「たのむよ神様」の福の神少女の空気の読めなさや、「二階堂孝文考」の突っ走りっぷりなど、どれもなかなか強烈。これがひとつ辻田先生の持ち味で、一風変わった物語の数々を、笑いあり感動ありで楽しむことができます。やっぱり異色ですよね、辻田先生は。浮いてるとかじゃなく、「アクセント」って言葉がハマる感じ。単体でも面白いですが、雑誌にて他の作品の中にあるとさらに持ち味が際立ちそうです。
 
 ただ色ものキャラを使うと、前半暴走→後半シリアスな面を覗かせて感動というパターンが基本になるのですが、読切りだとちょっと忙しくなってしまう印象。もちろんハマれれば楽しめるワケですが、それだと今度は、もっと続き読んでみたい!となるわけで、なんとももどかしいのです。1話目で落としておいて、その後挽回してさらに持ち味に変えていく…ぐらいが丁度良いかな、と。で、それを体現しているのが「笑うかのこ様」だったり。

 1話目と5話目は関連のあるお話となっており、そちらでの繋がりも楽しめる内容となっております。ちなみに今回収録されている読切りで、辻田先生の掲載作のストックが切れたというから驚き。白泉社は連載を獲得するのがなかなか大変で、それまでに何度も読切りを掲載するのですが、それらがコミックスに収録されないまま埋もれてしまうということがしばしばあります。それをコミックスで全部読むことが出来るってのは、ファンとしては非常にありがたいことですよね。先生のファンであればマストバイの一作なのではないでしょうか…ってファンならもう買ってるか。
 
 あと「ささくれ姉妹」と「たのむよ神様」はあからさまに連載狙ったような終わり方ですね(笑)先生自身、「たのむよ神様」の続きは描きたいようで、もしかしたら後々見られるかも。読切りだけだと福の神少女の魅力がほぼ発揮されていないという悲しい状態なので、ぜひ連載化してフォローして欲しかったり。 


【男性へのガイド】
→ちょっとひねくれた感じのコメディがお好きな方は。ただ今作は恋愛色強めなので、「かのこ様」と比較するとちょいと弱いかもしれんです。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→先生の持ち味と、その成長を確かに感じることができる一作。ただ個人的には、色モノが連続してちょっと疲れてしまいました。結構向き不向きのある先生なんじゃないかなぁとも。


作品DATA
■著者:辻田りり子
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:LaLaDX(平成18年7月号,19年3月号,9月号,21年9月号),LaLaスペシャル(平成21年8月号)
■全1巻
■価格:400円+税

■購入する→Amazonbk1

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