
あの旋律が 今も
私の心をかきならし
私の胸をかきむしる
その名前を 恋とよぶのだ
■計6話を収録。それでは表題作をご紹介しましょう。
毎日日が暮れるまで遊んでいた空き地の隣にあった教会。そこであるとき見た、天使のように歌う少年の姿。たった一度目にしただけだけであったが、その姿は色褪せることなく、心の中にあった。その後幾度となく彼に再会するが、変わった彼の向こうに、そのときの少年の姿を浮かべる…
紺野キタ先生の作品を読むのは、「つづきはまた明日」(→レビュー)が初めてだったのですが、温かく優しい日常の風景が非常に素敵な作品で、他の作品もコンプリートしてみようと思い手を出してみました。この作品は大洋図書のミリオンコミックスというレーベルで、いわゆるBL作品にあたります。紺野キタ先生も、メインフィールドはBL。ここから「つづきはまた明日」に繋がるようなエッセンスを、なんとなく感じることができたかな、と。
BLといってもそこまでハードでディープな内容はなく、全体的にかなりライトで、雰囲気の良さで語るような、男としては非常に読みやすい内容になっていました。恋愛云々というよりは、友情にきわめて近いものや、過去の想いを回想するもの、またゲイを見守る側に置いて、メインにストレートの男の子を据えた話などで構成されていて、ガシっとBLっぽさを感じさせたのは、最後に収録されていた「天使も踏むを恐れるところ」ぐらいかも。

数年ぶりにあった息子が、女の子の格好をするようになっていた「とてもじゃないけどみつからない」。BL視点はあるけれど、家族愛的な部分が感じられ、非常に雰囲気の良いお話になっていました。
6話収録されていますが、シリーズ的には4シリーズという構成。成人して家庭まで持った男が、過去を回想していく形で進んでいく短編「SALVA ME」。とある学校に転入してきた沢渡くん視点から、少年たちの賑やかな日常を描く「告白」と「小泉くんと愉快な仲間たち」。少女小説家をやっている男の元に別れた妻から、子供を預かって欲しいと頼まれ、何年かぶりに再会してみたら、息子が美少女になっていたという「とてもじゃないけどみつからない」と「めばえ」。そして西洋を思わせる舞台で、親友二人が再会し想いを重ねていく「天使も踏むを恐れるところ」。どれも少年ないし少女がモチーフとして描かれていますが、これは「つづきはまた明日」でも同じ。どの子供たちも生き生きしているというか、非常に子供らしく、見ていてとっても微笑ましく優しい気持ちになれます。そういうところが魅力なのかな、とふと思ったり。少年同士の想いってのは、友情の延長にあるような感覚ですし、大人視点でも少年に対峙する時は色恋を越えた“愛情”で接するわけで、「読み手を限定しない普遍的な心情」で、男の私でも容易に物語に入り込むことが出来ました。
個人的に特にお気に入りだったのが、「とてもじゃないけどみつからない」と「めばえ」のシリーズ。メインとして描かれるのは、可愛らしい女の子の格好をした少年で、けれどもストレートという変わり種。感覚的には「放浪息子」のような感じでしょうか。ただあちらは女装することによって生まれる疎外感であるとか、厳しい話も描くわけですが、こちらは基本短めなのでそういった厳しい方向にはいかず、美味しい部分だけを抽出して展開します。BL要素ということでは、彼の父がゲイだったり、彼と同じクラスの男の子が彼をやたらと意識していたりと、周囲を固める人物にそういった設定をプラス。そうやって要素を外に置くやりかたもあるのだな、と目から鱗。非常に読みやすく、そして面白かったです。
【男性へのガイド】
→BLというよりは、BLテイストと言った方がいいぐらいのライトなBLで、比較的読みやすいと思います。少年だけでなく少女もモチーフとして頻繁に登場するので、男だらけで胸焼けするようなこともないかと。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→いやー良かったです。どれもばっちり読めて、しっかり楽しめました。やっぱり雰囲気の良さが際立っていますね。読んだ後優しい気持ちになれる一冊でした。
作品DATA
■著者:紺野キタ
■出版社:大洋図書
■レーベル:ミリオンコミックス
■掲載誌:CRAFT(2002年Vol.1214,15,2003年Vol.16,17,2004年Vol.21,22)
■全1巻
■価格:600円+税
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