
何故でしょうか
泣いているのは私なのに
彼の泣く音が
聞こえた気がしました
■とあるお屋敷に住む令嬢・環。母は華族出身で、父はその家格目当てで結婚。いわゆる政略結婚というやつで、いつしか父は家から離れていきました。一緒に暮らす母も、環のことに興味などなく、親子という名の他人のよう。そんなお屋敷に、ある日ひとりの書生がやってきます。彼の名は黒田景明。母はいたく彼を気に入っているようでしたが、環は何を考えているかわからない彼のことが苦手だったのでした。けれどもある日、彼の優しさが環の心を静かに溶かし…
タアモ先生の作品ばっかりレビューしてますが、今月末に新作が発売になるので、それまでに全部レビューしようかな、と。ということで、「恋月夜のひめごと」のご紹介です。屋敷に閉じこめられた令嬢と、書生として仕える青年のラブロマンス。書生と言うことですから、いわゆる時代物となります。ヒロインは、政略結婚で生まれた環。父はすでに家に寄り付かなくなり、母も環にはまるで興味がなく、これっぽっちも愛情を注がれずに育ってきました。そんな屋敷に書生としてやってきた、一人の青年・黒田景明。彼の出自は明らかでないものの、どうやら環の母は彼のことが大変お気に入りらしく、いつも側に置いています。そんな景明のことが、なんとなく気に入らない環。出会いがあまりいいものではなく、ついつい構えて接してしまうのでした。けれども何度か話しているうちに、お互いの心は溶け、やがて強く意識するように。しかしふたりは母に愛されない令嬢と、母のお気に入りの書生です。そう簡単に結ばれるような関係にはなく、多くの邪魔が二人の仲を隔てるのでした。

もちろん逃避行を企てたりする。ベタ。けれど、ベタじゃなければこの手の話は成立しない。
一番の壁になるのは環の母親です。ちょっと歪んだ性格の彼女は、娘である環に過剰なまでに冷たく当たります。少しでも景明と仲良くしようものなら、言葉を交わすのを禁止にし、さらには環を屋敷に閉じこめてしまったり、留学の話を勝手に進めたりしてしまいます。しかしそれは逆効果。引き離されれば引き離されるほど、環は景明を強く求め、また景明も弱っていく環の事を一層気にかけるようになっていきます。ベースとなる雰囲気は、重苦しく悲しいもので、なんとなく昼ドラのような多少ドロドロしたテイストが含まれています。
メロドラマといいますか、悲劇ベースの重く切ない話で、タアモ先生の普段の作品とは一線を画するようなお話となっています。それを新境地と捉えるか、ミスマッチと捉えるかは読み手の自由。ストーリーとしてはかなりベタなのですが、だからこそ楽しめるという側面というものが、この手の話には少なからずあるわけで、試みとしては一応成功しているのか。母親の暴走っぷりにはちょっとひいてしまいましたが、ああいったキャラがいないと物語は成立しないわけで、難しところですね。また同時収録の読切りは、お堅い委員長キャラの女の子と、人付き合いの上手い男の子のラブストーリー。こちらも黒髪ロングのヒロインと、黒髪キャラがお好きな方にはたまらない一冊となっております。
【男性へのガイド】
→昼ドラっぽいテイストはちょいと男性には向かないような。相変わらずカワイイですけどね。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→タアモ先生はベタを描かせても面白く描いてきそうなのですが、こういう系統のベタはちょっと良さが削がれてしまうような気も。
■作者他作品レビュー
タアモ「お願い、せんせい」
タアモ「初恋ロケット」
タアモ「吾輩は嫁である。」
タアモ「ライフル少女」
タアモ「あのこと ぼくのいえ」
タアモ「少女のメランコリー」
作品DATA
■著者:タアモ
■出版社:小学館
■レーベル:ベツコミフラワーコミックス
■掲載誌:ベツコミ('07年9月号~12月号)
■全1巻
■価格:390円+税
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