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Tag [オススメ] [新作レビュー] 2010.02.13
1102875781.jpgすえのぶけいこ「リミット」(1)


よーく覚えておきなさい
ここはもう
学校じゃないのよ



■姫澤さくらを頂点とするクラスの中心グループに属し、強者として過ごしていた今野。どちらかというと要領がよく、空気を読むのも上手かった彼女は、クラスでもそれなりのポジションを獲得し、楽しい毎日を過ごしていた。「人間は平等じゃない。優劣もヒイキも差別も当然あって、強者と弱者に別れている」   そんな毎日が、これから先もずっと続いていく。その中で私は、上手く泳ぐのだ。だが学校行事のキャンプに向かう時に起きたある「出来事」から、状況は大きく変わっていき…!?

 「ライフ」を完結させたすえのぶけいこ先生の新作です。今回もすごいとは聞いていましたが、確かにすごいです。スタートは「ライフ」と同じような、学校が舞台。しかし間もなく全く別の方向に話は進んでいくことになります。
 
 学校カーストが強く定着したクラスが向かったのは、山奥にある施設。クラスごとでの出発で、ヒロインである今野のクラスは最後の組。最後の組は施設の掃除などが大変なことから、クラスのボス的存在の姫澤は苛立ちを募らせ、また順番を決めるくじを引かされた虐められっ子の盛重は、恐怖におののき一層萎縮していました。そんな道すがら、バスの運転手が突然意識を失い、バスは山道から崖下へ墜落。夜になって今野が気がついたとき、そこには地獄のような光景が広がっていました。血の匂いが充満し、闇の向こうにうっすらと見える、変わり果てたクラスメイトたちの姿。必死に出口を探し、バスの外に出ると、そこには生き残ったクラスメイトの姿がありました。気が弱く大人しい薄井,群れることを嫌う冷静沈着な神谷,今野と同じ上位グループに属していた市ノ瀬,そしてイジメのターゲットであった盛重。崖に囲まれ身動きが取れず、そして携帯も繋がらない山奥で、ただ救助を待つしかできない状況に、彼女たちは様々な反応・行動を見せていくようになります。


リミット
極限の状況下に置かれると、それまであった関係性や常識が一気に通用しなくなる。お約束ではありますが、やはり面白いと思ってしまうし、興奮・集中してしまいます。


 こういった特殊な状況下に置かれると、それまでの上下関係というのがリセットされるという展開はお約束。今回は生き残った者の中で主導権を握ったのは、それまで虐められていた盛重。そして冷静沈着で状況把握が的確にできている神谷がナンバー2という構図になります。一番狂気を見せた者が、恐怖で他を制圧するという状況ですが、この盛重さんの狂気っぷりが素晴らしい。この危機的状況を、「自分を虐めていた存在に天罰が下った」と喜んでいるんですから。ポイントは、大ボスである姫澤という存在が早々に死んだことでしょうか。彼女が生きていたら、こういった逆転現象は起きなかったでしょうし、その取り巻き(ヒロイン・今野と市ノ瀬)も精神的支柱を失いここまで乱れることはなかったはず。救助が来るまでの少女達の極限の時間を、迫力満点で濃密に描き出していきます。

 こういったシチュエーションは、青年誌などでもたまに見られ、例えば「ドラゴンヘッド」や、「サバイバル」などにも似たような状況は登場していました。それらと比べた時に、どうか…というところなのですが、しっかりこの作品・この作者ならではの味付けをしてきています。まず生き残ったのは全て女子ということで、男を完全に排除。女のみでのサバイバルというのは他にあまりなく、またこの濃密な女子同士のぶつかり合いも、すえのぶ先生だからこそ描けるというところでしょう。それに本来の持ち味である、イジメ云々といった要素もしっかりと持ち込んできており、前作からのファンもちゃんと"すえのぶ節”を感じつつ読み込んでいけるはず。
 
 前作では、イジメによってどんどんと歪んでいく様子を上手く描いていましたが、今回はすでにある程度の歪みがある中で、極限の状況下に放り込み、それを一気に発露させるというもので、やはり違いはあるのかな、と思います。むしろこちらは狂気にまみれつつも清々し気分で、意外と読後感は良かったですね(「悪くなかった」と言う方が正解かもしれませんが)。力強くグイグイと作品に引き込みますし、救助が来るまでということでそこまで長期化することもないでしょうから、この勢いを保ったまま最後まで突っ走りそうな予感も。とりあえず読んでおいて損はないんじゃないでしょうか?


【男性へのガイド】
→女同士の闘いというのも、非常に見物なんじゃなかろうかと思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→インパクト抜群。多少の齟齬なんて気にならないくらいに引き込み、あっという間に1巻終了。好き嫌いはあるかもしれないですが、やはり読ませる先生です。もちろんオススメ。ただ長期化したらどうなのかって心配もあるので、現時点では4つで。


作品DATA
■著者:すえのぶけいこ
■出版社:講談社
■レーベル:KC別フレ
■掲載誌:別冊フレンド(2009年11月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「別冊フレンド」コメント (6)トラックバック(0)TOP▲
コメント

 このようなサバイバル系の漫画は、いづきさんも挙げられている「ドラゴンヘッド」「サバイバル」や「漂流教室」「バトルロワイヤル」など、いろいろな有名作品がありますね。
 これらの作品と、「リミット」を比べたときに感じるのは、「女のみ」というのが一番注目すべき点だと私も思うのですが、もう1つ、「タイトルと表紙だけだと、サバイバル物ではなく、『ライフ』のような、イジメの内容を連想させる」ところだと思います。普通、この手の漫画は、タイトルや表紙で「サバイバル物」ということをアピールするのですが、「リミット」は、敢えてアピールしていません。(別フレ本誌の予告編でも、サバイバル物とは書いてなかったです。)
 ですから、第1話の中盤以降の展開には本当に驚きました。

 私にとって、「ライフ」は、本当に想像を超えた展開の連発で、いろいろな意味で印象に残っている作品です。「リミット」も、今後の展開にはとても期待しています。
From: シャドー * 2010/02/18 21:25 * URL * [Edit] *  top↑
こんばんは。

最初私も学級内イジメものだと思っていたので、この展開には度肝を抜かれました。
この作品の真の評価は、サバイバルシーンがどう描かれるかで決まりますが、先を期待させる助走段階だったと思います。
2巻以降楽しみですね。
From: いづき * 2010/02/20 00:36 * URL * [Edit] *  top↑
わたしも、自分がいじめに遭っていただけあって、ライフをずっと読み、今回のリミットも読んでみましたが、すえのぶさんのすごいところは、同じいじめられっ子でも、歩と盛重とでは全く違う描き方をしているということですね。

いじめっ子だった愛海とさくらも、似たようでいてやはり違っていた気がします。

愛海のほうがある意味、変な言い方ですが正直さがあったような、さくらはもっとある意味陰湿だったのかな、そんな感じです。
まあ、いじめられっ子にしてみれば、どっちも変わらないじゃないかと思いますが。^^;

歩が、今回の盛重のようになって、愛海が死んだりしたら、盛重のように狂気に走らず、むしろ歩の性格ならかなり動揺して、戸惑ったのではないかと思います。

元は、歩と愛海は友達だったので、状況がぜんぜん違うのですが。(^^ゞ
でも、さくらと盛重は友達だったという描写はないので、あそこまで違ってしまったのかと。

今回、前作ではエミのような、いじめっ子の取り巻き、今野が主役で、どちらかといえばいじめっ子が主役だというのも、わたしは新鮮でした。

いじめられっ子が主役の漫画は結構ありますが、少なくともいじめっ子が主役という話はあまり聞かないからです。
(いじめられっ子がいじめっ子になってしまった話はありました)

いずれにしても、今後非常に楽しみです。(^^♪
From: 彩ますみ(MASUMI) * 2010/02/27 09:25 * URL * [Edit] *  top↑
こんにちは。コメントレス遅れてしまって申し訳ありません。
私もいじめられっ子ではなく、いじめっ子が主人公ということで、驚きました。
しかもその後の怒濤の展開。あっという間に引き込まれてしまいました。
特に驚きだったのは、ボス格のさくらが早々に死んでしまったことですね。
彼女が生きていたら全く違った展開になったであろうことが予想できるので、すえのぶ先生は本当に登場人物たちのパワーバランスの取り方が上手だな、と感心させられます。

これからの展開が、本当に楽しみです。
コメントどうもありがとうございました!

From: いづき * 2010/03/01 06:16 * URL * [Edit] *  top↑
なんかめちゃめちゃ→こわかった~☆
全巻よみたいけど、
途中までしか
なかった………(T_T)
ライフもおもしろいけどリミットもいい(≧∇≦*)
基本的に絵がすき(*^▽^*)
見やすいし、かっこいい★
From: 舞璃愛★(^^)/ * 2012/02/26 00:29 * URL * [Edit] *  top↑
全巻読みました!もう・・・・・・・・・・
        めっさ泣けるううううううううううううううううううう
私マンガで泣いたことないわあああああああああああああああああ
From: nono * 2012/06/23 13:05 * URL * [Edit] *  top↑

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