
よーく覚えておきなさい
ここはもう
学校じゃないのよ
■姫澤さくらを頂点とするクラスの中心グループに属し、強者として過ごしていた今野。どちらかというと要領がよく、空気を読むのも上手かった彼女は、クラスでもそれなりのポジションを獲得し、楽しい毎日を過ごしていた。「人間は平等じゃない。優劣もヒイキも差別も当然あって、強者と弱者に別れている」
「ライフ」を完結させたすえのぶけいこ先生の新作です。今回もすごいとは聞いていましたが、確かにすごいです。スタートは「ライフ」と同じような、学校が舞台。しかし間もなく全く別の方向に話は進んでいくことになります。
学校カーストが強く定着したクラスが向かったのは、山奥にある施設。クラスごとでの出発で、ヒロインである今野のクラスは最後の組。最後の組は施設の掃除などが大変なことから、クラスのボス的存在の姫澤は苛立ちを募らせ、また順番を決めるくじを引かされた虐められっ子の盛重は、恐怖におののき一層萎縮していました。そんな道すがら、バスの運転手が突然意識を失い、バスは山道から崖下へ墜落。夜になって今野が気がついたとき、そこには地獄のような光景が広がっていました。血の匂いが充満し、闇の向こうにうっすらと見える、変わり果てたクラスメイトたちの姿。必死に出口を探し、バスの外に出ると、そこには生き残ったクラスメイトの姿がありました。気が弱く大人しい薄井,群れることを嫌う冷静沈着な神谷,今野と同じ上位グループに属していた市ノ瀬,そしてイジメのターゲットであった盛重。崖に囲まれ身動きが取れず、そして携帯も繋がらない山奥で、ただ救助を待つしかできない状況に、彼女たちは様々な反応・行動を見せていくようになります。

極限の状況下に置かれると、それまであった関係性や常識が一気に通用しなくなる。お約束ではありますが、やはり面白いと思ってしまうし、興奮・集中してしまいます。
こういった特殊な状況下に置かれると、それまでの上下関係というのがリセットされるという展開はお約束。今回は生き残った者の中で主導権を握ったのは、それまで虐められていた盛重。そして冷静沈着で状況把握が的確にできている神谷がナンバー2という構図になります。一番狂気を見せた者が、恐怖で他を制圧するという状況ですが、この盛重さんの狂気っぷりが素晴らしい。この危機的状況を、「自分を虐めていた存在に天罰が下った」と喜んでいるんですから。ポイントは、大ボスである姫澤という存在が早々に死んだことでしょうか。彼女が生きていたら、こういった逆転現象は起きなかったでしょうし、その取り巻き(ヒロイン・今野と市ノ瀬)も精神的支柱を失いここまで乱れることはなかったはず。救助が来るまでの少女達の極限の時間を、迫力満点で濃密に描き出していきます。
こういったシチュエーションは、青年誌などでもたまに見られ、例えば「ドラゴンヘッド」や、「サバイバル」などにも似たような状況は登場していました。それらと比べた時に、どうか…というところなのですが、しっかりこの作品・この作者ならではの味付けをしてきています。まず生き残ったのは全て女子ということで、男を完全に排除。女のみでのサバイバルというのは他にあまりなく、またこの濃密な女子同士のぶつかり合いも、すえのぶ先生だからこそ描けるというところでしょう。それに本来の持ち味である、イジメ云々といった要素もしっかりと持ち込んできており、前作からのファンもちゃんと"すえのぶ節”を感じつつ読み込んでいけるはず。
前作では、イジメによってどんどんと歪んでいく様子を上手く描いていましたが、今回はすでにある程度の歪みがある中で、極限の状況下に放り込み、それを一気に発露させるというもので、やはり違いはあるのかな、と思います。むしろこちらは狂気にまみれつつも清々し気分で、意外と読後感は良かったですね(「悪くなかった」と言う方が正解かもしれませんが)。力強くグイグイと作品に引き込みますし、救助が来るまでということでそこまで長期化することもないでしょうから、この勢いを保ったまま最後まで突っ走りそうな予感も。とりあえず読んでおいて損はないんじゃないでしょうか?
【男性へのガイド】
→女同士の闘いというのも、非常に見物なんじゃなかろうかと思います。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→インパクト抜群。多少の齟齬なんて気にならないくらいに引き込み、あっという間に1巻終了。好き嫌いはあるかもしれないですが、やはり読ませる先生です。もちろんオススメ。ただ長期化したらどうなのかって心配もあるので、現時点では4つで。
作品DATA
■著者:すえのぶけいこ
■出版社:講談社
■レーベル:KC別フレ
■掲載誌:別冊フレンド(2009年11月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:419円+税
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