
私がこの世からいなくなった後
どのくらいたてば
貴方は
私を忘れられるのだろうか
■機械でもなく、人間でもない、持ち主の愛情度合いを反映して成長する、それはある意味鏡。「ハイブリッド・チャイルド」と呼ばれるそれは、はじめ子供の姿をしていて、持ち主が愛情を注ぐことによって如何様にも自分好みに育つシロモノである。小太郎の家にいる葉月も、小太郎が8歳の時に拾ってきたハイブリッド・チャイルド。いつも小太郎の側にいて、厳しくも小太郎の面倒を見てくれる葉月だったが、ある日突然体に異常をきたして…!?
アニメ化もされた「純情ロマンチカ」で有名な中村春菊先生のBL作品。こちらの評価も高いので、10巻以上出ていて敷居の高いイメージのある「純ロマ」に手を出す前に、こちらを読んでみました。ジャンルとしては歴史物のファンタジーになるんですかね?けれども戦闘シーンとかが出てくるわけではなく、人間ドラマがメイン。人間でもなく物でもない、感情を持ち成長もする人工物・ハイブリッド・チャイルド(HC)を巡る3つのストーリーが、江戸・明治あたりを思わせる時代を舞台に展開されます。はじまりは、名家の跡取り息子・小太郎と、かつて小太郎が拾ってきたHCで、今は執事として彼のお世話をしている葉月がメインのお話。ずっと一緒に育ち、喧嘩をしつつも強い絆で結ばれた二人でしたが、ある日突然葉月の体に異常が。突然の出来事に驚いた小太郎は、慌てて開発者である黒田という男の元に葉月を運び込むのですが、そこで思いもよらぬ宣告をされることに…というストーリー。

第2話。主人のために、自分のために、はやく大きくなりたいHCが主人公。まぁとにかく皆健気で切ないです。
2話目はまた別のHCと持ち主がメイン。こちらも持ち主とHCの強い絆を描いた作品となっており、非常に感動的な要素が詰まった内容となっております。そして最後は、1話目と2話目に繋がる、HCの開発者のストーリー。彼がどうしてHCを作ったのか、そこに込められた思いが描かれます。HCは、持ち主の愛情がいっぱいに注がれた存在ですから、自然とその間にある絆というのは強くなっていきます。加えて人間同士でないと言う、なかなか乗り越えられない壁というのも感じさせるため、感動を作り出す仕掛けは設定の時点で満載。これは設定の時点で勝ち。これを悲劇・喜劇的に表現するのなら「観用少女」(→レビュー)のような形で、感動的に進めるのならこういった形といった感じなのでしょうか。
徹底してお涙ちょうだいな感動路線を進むのですが、人によっては「ちょっとベタすぎない?」と思ってしまうかも。ただ展開としては非常にキレイですし、妙に捻っていないので、読んだ後の清々しさはなかなかのものがあります。また直接的な表現はなくとも、絵や雰囲気でBLっぽさはビンビンに感じさせてくるのですが、このベタっぽい展開も相まって、読みやすさは抜群。今まで読んだどのBL作品よりも、すらすらとページをめくっていくことができたように思います。これは単に大ゴマ使いってだけでなく、読ませ方が抜群に上手いからこそという感じが。もし「純ロマ」もこんな感じだとしたら、それだけ人気が出て多くの人に受け入れられているというのも納得です。また読切り作品集かと思って読んでいたので、最後に作品としてぴしっと形になったのには正直感動。そんなにBL作品読んでませんが、この組み立てはさすがだと思いました。
エロシーンは少なめ。キスが数回にペッティング的な描写が幾度かという感じ。そこに限らず表現がいちいちBLっぽさを感じさせるのですが、多分勢いに乗って読み進めているので、その衝撃を真正面から受けることはそんなにないはず。
【男性へのガイド】
→かなり読みやすい部類に入るのではないでしょうか(あくまでBL基準ですが)。キスとかまでなら大丈夫、クサい話も大丈夫という方は。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→スピーディーに読み終わり。最初はちょっとクサすぎないかと思っていたのですが、最後にバシッとまとめてきたところは否応無しに感動。評価の高さ、作者さんの人気っぷりも納得の作品でした。満足満足。
作品DATA
■著者:中村春菊
■出版社:角川書店
■レーベル:あすかコミックスCL‐DX
■掲載誌:BE・BOY GOLD('03年8月号,'04年6月号~10月号)
■全1巻
■価格:571円+税
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