
あたしたちと
いっしょに
暮らさない?
■3巻発売です。
男の部屋で朝を迎えた三姉妹の次女・佳乃の元に、父の訃報が届いた。母との離婚で長い間会っていなかった父の死に、何の感慨もわかなかったが、それでも実の父の死だ。仕事で行けない長女・さちの代わって、三女・チカと共に、父の亡くなった山形へ向かう。そこにいたのは、父の後妻のさらに後妻にあたる女性とその子供、そして一人残された後妻の娘で、中学生の女の子・すず。哀しみのあまり何もできない義母にかわり、泣き顔一つ見せずにすべきことをこなすすず。居場所がないわけではない、けれどもあまりにしっかりしすぎているその姿は、やはりどこか不自然だ。そんな彼女に、遅れてきた長女が別れ際声をかける「鎌倉にこない?あたしたちといっしょに暮らさない?」…そして蝉時雨のやむ頃、香田家に末の妹がやってきた。
実力派ベテラン作家・吉田秋生が描く、とある四姉妹の鎌倉での生活を描いた作品です。「このマンガがすごい!2008」オンナ編にて2位になったこともある人気作なのですが、このたび1年4か月ぶりの新刊ですよ。いやー長かった。それでは内容をご紹介しましょう。
舞台となるのは鎌倉にあるとある一家。一家と言っても父も母もおらず、暮らしているのは三姉妹。看護士をしているしっかりもののサチに、銀行に勤める酒好きで男好きの次女・佳乃、そしてスポーツショップで働く明るい性格の三女・チカ。父は外に女を作り家を出ていき、やがて母もまた同じように家を出ていったのでした。そんな一家の元に届いたのは、父の訃報。聞く所によると、一緒に出ていった女性とは程なくして死別、そのときに設けた娘といっしょに山形へ移り、そこで新たに妻を迎えて後の死だったよう。長女はともかく、ほとんど父の記憶のない次女と三女は、そんな知らせを聞いてもこれといった感情はわいてきません。とりあえず葬儀には向かったものの、何より気になったのは父のことより、ことあるごとに泣き崩れ何も手につかなくなる後妻さんと、それにかわってしっかりと物事をこなす父の連れ子・すず。感情を圧し殺し、すべきことを淡々とこなすその姿に、自分とその姿が被ったのか、はたまた姉心が働いたのか、長女はすずに優しい言葉をかけ、そして一緒に暮らさないか?と提案します。会った時間はごくごく短いものの、心を通わせるには彼女たちには十分すぎる時間でした。そのとき返事はしなかったものの、表情が答えを物語っていました。そして蝉時雨のやむ頃、香田家に四人目の妹がやってきたのです。

序盤で物語中に火薬をセット、それをとある起点で一気に爆発させ、あっという間に物語に引き込む。以降は目が離せない。
描き出すのは「家族の絆」。それぞれに悩みや葛藤を抱えるなかで、時に励まし、ときに支えあいながら前に進んで行く様子がとにかく愛おしいです。物語は状況によって、四姉妹それぞれの視点から展開されるのですが、メインとなるのはすず。その年の割に、多くのことを経験してきた彼女には、他の子には強さがあり、物語の軸に据えるのにはうってつけ。まただからといって擦れているわけでもなく、新しい環境で経験する様々な物事を通して、色々なことを学び考え、健やかに成長していくため、単純に日常の繰り返しを描くだけ留まらずに、しっかりと物語に広がりを付与してくれています。また子供の視点を通すからこそ、姉たちの感情や状況をより的確に描き出すこともできたりするわけで、このすずという存在は本当に素晴らしいな、と読むたびに思わされます。そこに加えて、情緒溢れる鎌倉という舞台もプラス。もうそれだけでなんとなく感情を揺り動かされる気がします。ちなみに私は一度だけ鎌倉に観光に行きましたが、GWということで人が多すぎて、観光どころではありませんでした。雨の日の人が少ない時などに、もう一度行ってみたいですね。
核となるのは四姉妹ですが、そこに何かしらの形で関わることによって、もう少し拾い範囲の人間模様までカバー。例えば佳乃の恋人であった、高校生の男の子とその家との問題であったり、すずと同じ部活の面々であったり…。それでも鎌倉という町が外枠をしっかり囲っているかのように、広がって行った人間関係もある程度の位置でしっかりとあるべき範囲に収束。香田家というひとつのユニットでの安心感がまずあり、さらに物語全体を覆う鎌倉という大きなユニットが、もうひとつの安心感を提供してくれているようなイメージ。人間関係から感じる情緒と、舞台そのものがもつ情緒がダブルで迫ってくるので、とにかく読み心地が良いのです。だからといって物語が緩いということはなく、常に何かしらの問題を存在させて緊張感を保つなど、そのバランス感覚は絶妙。名手・吉田秋生の本領を、存分に味わえる作品となっております。すでに高い評価を受けている作品ですが、ウチでもあらためて強くプッシュしたいですね。オススメです。
【男性へのガイド】
→感情移入って点はあるのだろうか…。俯瞰で見守りながら物語の雰囲気を感受するようなイメージ。いや、もちろん読みやすいですが、そういう読み方がいいんじゃないかなぁと。
【私的お薦め度:☆☆☆☆☆】
→もちろんオススメ。上手いとか、面白いとか、そういう言葉だけじゃちょっと足りない。とにかく「良い」んです。少女漫画歴・漫画歴長めの人のほうがよりフィットしそうですが、そんな方は是非ともご一読あれ。
作品DATA
■著者:吉田秋生
■出版社:小学館
■レーベル:フラワーコミックス
■掲載誌:flowers(2007年8月号~連載中)
■既刊3巻
■価格:各505円+税
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