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Tag [オススメ] [名作ライブラリ] 2010.02.17
07186335.jpg津田雅美「eensy-weensyモンスター」(1)


温厚なのがとりえだと思っていたのに
自分の中にこんな毒々モンスターがいたなんて
がっかり



■成績・容姿ともに平凡だけど、温厚なのが取り柄の五月七花。超秀才・超美人の友達二人に囲まれ守られるように、平穏な高校生活を過ごしている。そしてこれから先も、こんな毎日が続いていく…はずだったのに!同じクラスの王子こと、常磐葉月の言動を見ていると、悪意の塊のような感情が、毒虫のように噴出!最初は我慢していたものの、ある時ついに葉月に悪態をついてしまい…。最悪の出会いを果たした二人の行く末はいかに!?

 津田雅美先生の人気作「彼氏彼女の事情」に続く連載作となったこちら。長編となった「カレカノ」とは違い、こちらは全2巻と比較的短めにまとまった作品となっております。ヒロインは、成績も容姿もごくごく平凡な高校生・五月七花。これといった特徴はないけれど、温厚なのが取り柄。小さい体も相まって、個性派超人が揃う友達たちから可愛がられながら、平穏な毎日を送っていました。しかしある日そんな毎日に激震が。同じクラスの「王子」こと、常磐葉月の言動がどうにも気に食わないのです。イケメン,成績優秀,運動神経抜群…それだけだったら別にいい、けれどそのナルシストっぷりがどうにもイヤ!彼と対面しようものなら、心の奥底から悪意の塊のような毒虫が飛び出してきて、とんでもない悪態をついてしまうのでした。温厚なのが取り柄のはずだったのに…自分の中に眠る、思わぬ存在に悩む七花と、初めて言われた暴言に自分を見つめ直す葉月。出会いは最悪だった二人。けれどお互いにまだ歩み寄る余地はありそうですが…


eensey-weenseyモンスター
歩み寄るも、もともとすれ違いがちなお互いの想い。いや、気がつかないだけで、私たちも案外こういった状況を抱えているのかもしれない。


 全2巻12話収録のこのお話は、二人の出会いからはじまり、ぐるっと1年間回った所でお終い。雑誌の月号に合わせて展開されるので、その歩みは常に一定で、かつまとまりもよく読みやすくなっています。最初はお互いに、自分のなかのダメな部分を発見し、見つめ悩んでいくことがメインで描かれ、2巻以降はお互いに歩み寄って、他人との関わりあいの中でいかに自分というものを形成していくかがメインとなっていきます。当然恋愛展開もありますが、それだけが見所というわけではありません。これは津田雅美作品に共通して言えることですが、どのキャラもラブストーリーはあったとしても決して恋愛本位になることはなく、それを変化材料として自分を見つめ、新たに自分というものを形成していく、いい意味での自分本位さみたいなものがあるように思います。その試行錯誤の様子が、どちらも不器用なキャラということもあり、滑稽でかわいらしく、そしてどうしても同調してしまいます。
 
 タイトルにもなっているように、この作品の真の主人公は、七花の心の中に潜む毒虫・モンスターだったりします。これは他人に対して抱く、抑えようのない嫌な気持ちを表現したものであると思うのですが、この表現は上手いなぁ、と。本当はこういった感情って、もっとおどろおどろしいものだと思うのですが、それらをかわいらしくデフォルメすることによって、自己満足の退屈なものから、読み応えのある物語へと昇華させているように思います。前作の「カレカノ」で回収しきれなかったように映る、「ブラック有馬」との対峙の仕方を、この作品にてしっかり描き上げることができているのではないでしょうか。根本は全然違うものだとは思いますが、その置かれている状況はなんとなく被って見えるのです。
 
 この作品の好きな所は、何といっても「王子」の葉月くん。物語当初はナルシスト全開でイタイ…そしてそれに気づき改心してからの、不器用すぎるあがきもイタイ…そしてそして七花を意識するようになってからの空回り感もイタイ…とにかく痛いんですよ!この子!最初は到底感情移入できないような勘違いラインでのイタさを発揮し、物語が進むに連れて、恋に悩み自分のダメさに苦しむ、感情移入せざるを得ないようなラインでのイタさを発揮するというお得感。スペックの高さに勘違いし、その後自分の経験のなさに絶望するその様が、どうしようもなく好きだったりします。そういえばそんな彼の状態を「男度」というもので作中では表していますが、これ結構現実でも意識してたりします。しかしなぜ「男度」を上げる方法だけ書いてないんだ!津田先生!


【男性へのガイド】
→「カレカノ」と同程度には読みやすいと思います。有馬くんよりも、葉月のほうがイタい分個人的には好きなんですが。
【私的お薦め度:☆☆☆☆ 】
→1年ひと回りでしっかりまとまっております。話は大きく広がりませんが、小さいなりの良さをしっかりと発揮しており、ポテンシャルは十二分に引き出しているな、という印象。


■作者他作品レビュー
*新作レビュー*津田雅美「ちょっと江戸まで」
「変わらない」ことの良さ 《続刊レビュー》津田雅美「ちょっと江戸まで」2巻


作品DATA
■著者:津田雅美
■出版社:白泉社
■レーベル:花とゆめCOMICS
■掲載誌:LaLa(平成18年12月号~平成19年11月号)
■全2巻
■価格:各390円+税

■購入する→Amazonbk1

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コメント

[���:FF00CC]��俄�������・��絖�[/���]私もさっき読み終わりました(女性ですが)。話が広がらなくてつまんないなーなんて思っちゃったりもしたのですが、日常にありそうな話で読みやすかったです。
From: ばばば * 2012/12/16 20:23 * URL * [Edit] *  top↑

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