
拝啓母さん
元気にしていますか?
突然だけどオレ
あの世にいます
■死後の世界「シェオール」、いわゆる「あの世」で霊魂相手に教師をしている三田村は、現世を体験ツアー中の生徒・清水つるに逃げられてしまう。彼女を7日以内に捜し出せなければ、清水は悪霊化、三田村自身も責任を負われて消滅してしまう。さてどうしたものか…策を練っている三田村の前に現れたのは、ついさっき死んだばかりの青年・花介。死んだばかりで現状がよくわかっていない花介を見た三田村は、これはチャンスと「7日以内に任務を果たせば生き返る」と誘い、一緒に清水のことを探すのだが…!?
スタイリッシュなファンタジー作品に定評のある唐々煙先生の新作。今度は現世とあの世が交錯する、タイムショックコメディです。ん、コメディ?そう、前作はシリアスな雰囲気の中送られたのですが、今作は一転勢いをそのまま笑いに変えてくるような作品となっております。主人公はどっちになるんだろ…序盤は教師の三田村視点で、そして後半は死んだばかりの青年・花介視点で物語は進んでいきます。現世体験ツアー中に、生徒に逃げられてしまったあの世の教師(霊魂相手に学びを説く存在)・三田村は、死んだばかりの青年に「探すのを手伝ってくれれば生き返る」と騙し、一緒に捜索をしてもらいます。生き返れるものだと信じて必死につるを捜索する花介と、逃げつつも常に三田村にちょっかいを出すつる、そして自分も消えてしまうかもしれないというのに全く危機感のない三田村。この事件は、他でもない三田村自身が抱える問題が引き金となっていたのでした。

怖がられている・嫌われているという自覚はある。しかし気をつけて直せるようなものでもないので、本人も困っている。
その問題とは、三田村が他人の痛みを汲み取ってやれない、無感情の人間(?)であるということ。極端に感情がない彼は、他人がどうして泣くのかわからないし、その期待に応えるような行動もすることができません。結果として合理的な行動をとり、相手を傷つけてしまう。それは、死んだばかりの花介に「まだ生き返るチャンスがある」と騙して利用したあたりにもよく表れています。それでもその面影に、生前の大事な人を重ねてしまうつるは、三田村のことが放っておけない。そしてそれが結果として、現世での逃走劇に発展したのでした。そんなつるの想いに触発されたのは、三田村よりもむしろ花介。そして二人に引っぱられるように、三田村自身もまた感情を少しずつ発露して行くようになります。そんなこんなで現世でひと暴れした後、舞台はあの世・シェオールの学校に。そして物語はやがて、更なる深みに入っていくことになるのですが…というところでストップ。2巻に続きます。
1巻はまるまるさわりという感じ。力技の連続で大丈夫かと思ったのですが、舞台設定なのであれば仕方ない所でしょうか。これからどう見せていくかが勝負。コメディとしてどうなっていくかはわかりませんが、ストーリー的な部分はこの作者さんですし、しっかりまとめてくる気がします。ただ軸をどこに置くかでかなり話の印象は変わってきそう。無気力・無感情の三田村の性格矯正に重きを置くのだとしたら、ちょいと大げさすぎる印象になりかねず、だとしたら大きな物語を用意して花介と三田村のダブルキャストで引っぱっていった方が面白そう。そんでもって、多分そういう方向に行きそう。とりあえず三田村は扱いに困りそうですね。生まれながらその状態なのか、それともかつて感情はあったのに、いまは失われているだけなのか。感情の薄いキャラってたくさんいるんですが、感動を生み出すのは「かつて感情があったのになくなってしまった」という状態からの揺り戻しの方だったりするように思うので。この辺も追々明らかになるのでしょうか。
【男性へのガイド】
→つるが希望かと思いきや、まさかのババア化。これはこれで面白いのですが、女日照りなこの作品では、若さを保っていただきたかった気もします。教師陣はクセ強めですが、花介は親しみやすいキャラ。強みはないものの、マイナス要素もさほどない印象です。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→物語の組み立てが上手いので、今はちょっとバラバラの感があっても後々挽回してくる可能性大。ただやっぱりコメディ要素が弱い気が。
■作者他作品レビュー
唐々煙「Replica」
作品DATA
■著者:唐々煙
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:ブレイドコミックスアヴァルス
■掲載誌:コミックブレイドアヴァルス(2009年7月号~連載中)
■既刊1巻
■価格:571円+税
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