
決まった時間に起きて
決まった時間に寝て
健康診断と授業と実習
…そんな毎日を繰り返す
多少めんどうなことがあったとしても
それだけのことだったはずなのに
■1・2巻同時発売です。
20XX年、その国は極度の国際緊張下にひとつの法案を制定した。それは15歳以上の男女に半年間の”特殊訓練“を義務化するもの。事実上の“徴兵制度”である。とある孤島・揺篭島にある訓練場で“義務教育”を受けているカヅキもまた、そんな“特殊訓練”の対象者のひとり。しかし刻一刻と開戦の時が迫りつつあることを、カヅキは今ひとつ実感できずにいた。同じ世代の少年たちが集い、決められたスケジュールで行動する。それは、訓練内容さえ気にしなければ学校と全く同じ。いつか教育期間も抜け、地元に戻って就職活動をする…そう思っていたのだが、そんな日々はある日突然終わりを告げ…!?
以前ご紹介した「ロゼッタからの招待状」(→レビュー)と同じく、コミックブレイドブラウニーからの移籍組になります。ブラウニーはわずか1号で休刊となり、その中でも見込みのありそうな「ロゼッタ~」とこちらの作品が移籍という形で連載を保ったというのが事の運び。それではストーリー紹介を…
舞台となるのは、諸外国に煽られる形で徴兵制度を制定したとある国。その制度では、15歳を迎えた男女は、半年間の”特殊訓練“を受けるという名目で、各訓練施設に収容されます。主人公のカヅキも、15歳になり訓練施設に収容されたひとり。消化されるメニューは確かに軍事訓練のそれなのですが、時代背景的にも、明確な敵国の像がイメージできないところからも、今ひとつ戦争に備えているという感覚が沸かないまま。むしろスケジュール通りに同年代の少年たちと過ごす日々は、学校に近い感覚を呼び起こさせます。そしていつものようにメニューを消化したある日、先に入学していた訓練生たちが実習から帰還。いつか自分たちも実習に出る、そしてそれが終わったら、もしかしたら戦地に赴いたりするのかもしれない。そんなことを漠然と考えつつ眠りについたカヅキでしたが、目を覚ますとそこは、人気のないボロボロになった訓練施設で…。というストーリー。その後彼はすぐに同室のサイの存在を確認、他に人はいないのか、そしてどういった状況に置かれているのか、手分けをして調べることにします。そこで出会うのが、声を出すことができない謎の少女。そして彼女が手に持っていたスプレーを見て、二人は困惑。そのスプレーの使用期限は、なんと30年後に設定されていたのでした。

謎が謎を呼ぶ。少女によると、すでに戦争に負けた後であるとのこと。そして虫除けスプレーの使用期限は30年後。
ある日目が覚めたら未来に飛ばされていたというSFもの。しかし何故飛ばされたのか、どう行動すれば良いのか、そしてその女の子の存在は一体なんなのか、すべてが謎のままに話は進んでいきます。主人公とその親友の他にも、同じように飛ばされた訓練生は多数。状況も飲み込めないままにパニックを起こす者や、監視官の目がないのを良い事に、権力を握ろうとする者、そして皆で協力して謎を解明しようとする者…その行動はさまざまです。しかしそう簡単に話はまとまらず、生徒たち同士で争いを繰り広げるように。そこでの見所を皮切りに、その周りに謎となる要素を更に絡めることで、物語の器は一層大きいものに。その世界の状況を解明するヒントになるであろう少女の存在に、その外に存在する何かしらの”意思“の存在。説明不足すぎる感は否めませんが、同時にスケールの大きさを感じさせる内容となっています。
そのヒントとなる描写はところどころに描かれているものの、肝心の内容はことごとく隠されたまま進行するので、こういった話に慣れない人にとってはややストレスフルな作品といえるかもしれません。ただこの進行状況を考えるのであれば、2巻同時発売はたぶん正解。わからないなりにも、しっかりと読み手を惹き付けるテンションと勢いは保っており、それが命綱として機能している感じ。SF慣れしている人にこそ、という作品だと思いますが、はたしてそのうちどれだけの人がこの内容を「違う・新しい」と思うかどうか。余程スケールを大きくするか、微細な部分にこだわっていくか、もしくはとんでもない仕掛けを用意するかしないと、「よくある作品」という位置付けで終わってしまいそう。現時点で面白そうなのは、少年たちの描写が独特で味わい深いというものですが、それ以外にワンパンチ欲しい所。そうすれば、良作・名作への道が開かれそうな気がします。
【男性へのガイド】
→男ばっかりですが、幼女もいるしいいんじゃない?なんて投げやりすぎるか。男や女を描いているというより、子供をしっかり描いているな、という印象。腐臭さはそこまで感じず、ストーリー的にも男性がいける部分はそれなりに多いように思います。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→読み応え抜群も、進んでいるようで進んでいないストーリーにちょっとモヤモヤ。これを我慢しながら読める人たちってすでにファンとかじゃないんですかね。ただ、その我慢の先にはすごい物語が待っている予感も。
作品DATA
■著者:藤野もやむ
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:ブレイドコミックスアヴァルス
■掲載誌:アヴァルス(20097・8月号~連載中)
■既刊2巻
■価格:571円+税
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