このエントリーをはてなブックマークに追加
Tag [新作レビュー] 2010.02.20
1102874294.jpg藤野もやむ「忘却のクレイドル」(1)


決まった時間に起きて
決まった時間に寝て
健康診断と授業と実習
…そんな毎日を繰り返す
多少めんどうなことがあったとしても
それだけのことだったはずなのに



■1・2巻同時発売です。
 20XX年、その国は極度の国際緊張下にひとつの法案を制定した。それは15歳以上の男女に半年間の”特殊訓練“を義務化するもの。事実上の“徴兵制度”である。とある孤島・揺篭島にある訓練場で“義務教育”を受けているカヅキもまた、そんな“特殊訓練”の対象者のひとり。しかし刻一刻と開戦の時が迫りつつあることを、カヅキは今ひとつ実感できずにいた。同じ世代の少年たちが集い、決められたスケジュールで行動する。それは、訓練内容さえ気にしなければ学校と全く同じ。いつか教育期間も抜け、地元に戻って就職活動をする…そう思っていたのだが、そんな日々はある日突然終わりを告げ…!?
 
 以前ご紹介した「ロゼッタからの招待状」(→レビュー)と同じく、コミックブレイドブラウニーからの移籍組になります。ブラウニーはわずか1号で休刊となり、その中でも見込みのありそうな「ロゼッタ~」とこちらの作品が移籍という形で連載を保ったというのが事の運び。それではストーリー紹介を…
 舞台となるのは、諸外国に煽られる形で徴兵制度を制定したとある国。その制度では、15歳を迎えた男女は、半年間の”特殊訓練“を受けるという名目で、各訓練施設に収容されます。主人公のカヅキも、15歳になり訓練施設に収容されたひとり。消化されるメニューは確かに軍事訓練のそれなのですが、時代背景的にも、明確な敵国の像がイメージできないところからも、今ひとつ戦争に備えているという感覚が沸かないまま。むしろスケジュール通りに同年代の少年たちと過ごす日々は、学校に近い感覚を呼び起こさせます。そしていつものようにメニューを消化したある日、先に入学していた訓練生たちが実習から帰還。いつか自分たちも実習に出る、そしてそれが終わったら、もしかしたら戦地に赴いたりするのかもしれない。そんなことを漠然と考えつつ眠りについたカヅキでしたが、目を覚ますとそこは、人気のないボロボロになった訓練施設で…。というストーリー。その後彼はすぐに同室のサイの存在を確認、他に人はいないのか、そしてどういった状況に置かれているのか、手分けをして調べることにします。そこで出会うのが、声を出すことができない謎の少女。そして彼女が手に持っていたスプレーを見て、二人は困惑。そのスプレーの使用期限は、なんと30年後に設定されていたのでした。


忘却のクレイドル
謎が謎を呼ぶ。少女によると、すでに戦争に負けた後であるとのこと。そして虫除けスプレーの使用期限は30年後。


 ある日目が覚めたら未来に飛ばされていたというSFもの。しかし何故飛ばされたのか、どう行動すれば良いのか、そしてその女の子の存在は一体なんなのか、すべてが謎のままに話は進んでいきます。主人公とその親友の他にも、同じように飛ばされた訓練生は多数。状況も飲み込めないままにパニックを起こす者や、監視官の目がないのを良い事に、権力を握ろうとする者、そして皆で協力して謎を解明しようとする者…その行動はさまざまです。しかしそう簡単に話はまとまらず、生徒たち同士で争いを繰り広げるように。そこでの見所を皮切りに、その周りに謎となる要素を更に絡めることで、物語の器は一層大きいものに。その世界の状況を解明するヒントになるであろう少女の存在に、その外に存在する何かしらの”意思“の存在。説明不足すぎる感は否めませんが、同時にスケールの大きさを感じさせる内容となっています。 
 
 そのヒントとなる描写はところどころに描かれているものの、肝心の内容はことごとく隠されたまま進行するので、こういった話に慣れない人にとってはややストレスフルな作品といえるかもしれません。ただこの進行状況を考えるのであれば、2巻同時発売はたぶん正解。わからないなりにも、しっかりと読み手を惹き付けるテンションと勢いは保っており、それが命綱として機能している感じ。SF慣れしている人にこそ、という作品だと思いますが、はたしてそのうちどれだけの人がこの内容を「違う・新しい」と思うかどうか。余程スケールを大きくするか、微細な部分にこだわっていくか、もしくはとんでもない仕掛けを用意するかしないと、「よくある作品」という位置付けで終わってしまいそう。現時点で面白そうなのは、少年たちの描写が独特で味わい深いというものですが、それ以外にワンパンチ欲しい所。そうすれば、良作・名作への道が開かれそうな気がします。
 

【男性へのガイド】
→男ばっかりですが、幼女もいるしいいんじゃない?なんて投げやりすぎるか。男や女を描いているというより、子供をしっかり描いているな、という印象。腐臭さはそこまで感じず、ストーリー的にも男性がいける部分はそれなりに多いように思います。
【私的お薦め度:☆☆☆  】
→読み応え抜群も、進んでいるようで進んでいないストーリーにちょっとモヤモヤ。これを我慢しながら読める人たちってすでにファンとかじゃないんですかね。ただ、その我慢の先にはすごい物語が待っている予感も。


作品DATA
■著者:藤野もやむ
■出版社:マッグガーデン
■レーベル:ブレイドコミックスアヴァルス
■掲載誌:アヴァルス(20097・8月号~連載中)
■既刊2巻
■価格:571円+税

■購入する→Amazonbk1

カテゴリ「ComicBlade avarus」コメント (0)トラックバック(0)TOP▲
コメント


管理者にだけ表示を許可する

この記事にトラックバック
検索フォーム
最新記事
カテゴリ
タグカテゴリ
月別アーカイブ
リンク
プロフィール

Author:いづき
20代男、Macユーザー。野球はヤクルト、NBAはマジックが好きです。

文章のご依頼など、大事なお話は下記メールアドレスへお願い致します。


■Twitter
@k_iduki

■Mail
k.iduki1791@gmail.com
※クリックでメール作成
RSSフィード
▽最新記事のRSSを購読

a_m.jpg
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

Power Push
2012年オススメはコチラ→2012年オススメ作品集


かくかくしかじか
東村アキコ「かくかくしかじか」(1)
レビュー
東村アキコ先生が贈る、美大受験期の自伝漫画。東村アキコ作品らしい勢いの良さだけでなく、急転してのシリアスな締めなど、一冊に笑いと感動が詰め込まれた贅沢な作品。




王国の子
びっけ「王国の子」(1)
レビュー
稀代のストーリーテラー・びっけ先生が描く“影武者”もの。王位継承権を持つ王女の影武者に、町の芝居小屋で役者をしていた少年が選ばれるというストーリー。良く練られた背景を説明するために、1巻まるまる使うような、重みと読み応えのある一作。




シリウスと繭
小森羊仔「シリウスと繭」(1)
レビュー
2012年で一番の掘り出し物。独特の絵柄で描き出すのは、どこにでもあるような高校生の恋愛模様。けれどもそんなありふれた感情を、ゆっくりと丁寧に描くことで、なんともいえない味わい深さが生まれています。出会いから仲良くなる過程、そして恋を自覚し、葛藤する様子まで、その全てが瑞々しさに溢れていて、なんとも愛おしい。




トーチソング・エコロジー
いくえみ綾「トーチソング・エコロジー」(1)
レビュー
売れない役者が、役者仲間を亡くしたと思ったら、お次は隣に高校の同級生が越してきて、さらには何やら自分にしか見えない子どもの姿が見えるように…。どこかゆるさのある不思議なテイストのお話なのですが、いくえみ作品で実績のある「ある者の死と、残された者の感情」を描き出す類いの作品ということで、この先きっと面白くなってくることでしょう。




BEARBEAR
池ジュン子「BEAR BEAR」(1)
レビュー
高校生には到底見えないロリっ子ヒロインが好きになったのは、遊園地のクマの着ぐるみ。着ぐるみの中身は同じ学校の子で、結局付き合うことになるものの、その後も変わらず相手はクマの被り物をしているという、シュールな光景が繰り広げられます。なんとも奇妙な相手役、かつなんともかわいらしいヒロインの、初々しいやりとりに終始ニヤニヤ。




かみのすまうところ。
有永イネ「かみのすまうところ。」(1)
レビュー
期待の若手作家・有永イネ先生の初オリジナル連載作は、宮大工の世界をファンタジックに、そしてファンシーに描いた青春ストーリー。宮大工という伝統ある重厚な世界を、美少女な神様をはじめ、これでもかとポップに描き出します。かといってシリアスさがないわけではなく、コミカルとシリアスが丁度良いバランスで推移。まだ1巻のみですが、これから先の展開を大きく期待させてくれる作品です。