
どうしてあなたはいつも
いつも
私が自分でも気づけずにいる
一番聞きたいと願っている言葉を
いともかんたんに
何でもないことのように
■ダーラム家の主・ローランドのもとにやってきたのは、父の後を継いだ若き執事エリック。父・ウォルターの雰囲気を色濃く受け継いだエリックに、ローランドは驚き、そして徐々に主人と執事を超えた感情を抱くように。一方のエリックもまた、ローランドのことを意識。しかし強くなっていく思いとは裏腹に、二人の間には、いつまでも厳然たる身分の差異が存在していた…。階上と階下、主と執事の切なくも優しい恋を、名手・紺野キタがおくります。
紺野キタ先生の作品集でございます。もちろんBL…なんですが、1話だけ百合作品が。収録の都合上こうなったらしいのですが、なんか真逆な感じが面白いですね(笑)さて、ということで、収録作をそれぞれ少しずつご紹介していきましょう。
主と執事の身分を超えた愛を描いた表題作「日曜日に生まれた子供」。厳しい自然の森の中で、番人や精霊と共に暮らす人間の少年を描いたファンタジー作品「森の郵便配達人」。かつての教え子と教師が抱える秘密を描いた「先生のとなり」。とある寮制度の学園を舞台に繰り広げられる、少女達の密やかな時間を綴った「いずこともなく」,「昼下がりの…」。どれも性別・年齢を越えた愛情、優しい関係を淡く描き出し、非常に雰囲気の良い作品に仕上がっています。

主人のローランドは身分の差をさほど気にしていないが、執事のエリックはその身分差を強く意識。その律儀さが余計に素敵に映る。
全体的に年齢層高めです。「日曜に生まれた子供」は、中年の主人と青年執事のカップリングで、「森の郵便配達人」は番人と呼ばれる老い先短いお爺さんと少年の関係を描いたものですし、「先生のとなり」に関しては、定年を迎えた男と壮年期に差し掛かろうとしている男のカップリングと、むちゃくちゃ渋い。唯一平均年齢が低いのが、百合作品の「いずこともなく」と「昼下がりの…」。BLと百合という対比だけでなく、年齢に関しても差を見せつけるというのは、BL期待で購入した人にとっては若干腰砕けなのかもしれませんが、別にBLにこだわらない私のような読者にとっては、むしろ色々な作品が楽しめてラッキーだったり。
前回「SALVA ME」をレビューした際は、子供をモチーフにすることで、色恋を越えた普遍的な愛情をもって作品を楽しむことが出来ると書いたのですが、この作品は一見すると真逆。メインで描かれるのは初老の男性であるためです。しかしこちらはこちらでまた、色恋を越えた感情をふんだんに織り交ぜて物語が展開。年老いているからこその心の余裕といいますか、すべてを受け入れるような懐の広さが、不思議な安心感を生み出してくれています。
またどの作品にも、登場人物の少年時代の過去回想がカットイン。「SALVA ME」と同様に子供を登場させるわけですが、その働きは若干異なるように思います。こちらの場合は回想という形を用いることによって、普遍的な感情を呼び起こすのではなく、その関係に必然性を与えるという役割が強い印象。だからこそ男の私でも拒絶反応を示さず、その関係性にいつも納得しながら読み進めることができるのではないかな、と。なんて「先生のとなり」なんかは枯れセンとは一線を画するような、欲望丸出しのギラギラ感が溢れ出ているわけですが。枯れセンにもまたいろいろな種類があるものなのですね。私は歳相応に枯れ、余裕と物悲しさが同居しているようなオッサンが好きです。
【男性へのガイド】
→オッサンがいやならダメでしょうか。百合ものだったらOKのような気がしますが。
【私的お薦め度:☆☆☆ 】
→個人的には「SALVA ME」の方が好き。こちらも面白いのですが、読み手は絞られるような気がするのです。
■作者他作品レビュー
*新作レビュー*紺野キタ「つづきはまた明日」
作品DATA
■著者:紺野キタ
■出版社:大洋図書
■レーベル:ミリオンコミックス
■掲載誌:CRAFT,百合姫
■全1巻
■価格:600円+税
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